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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
炎の巫女
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甘酢っぱ空間2

 ひとしきり笑い合ったあと、カリタリスティーシアは吹っ切れたのかスッキリした顔で言った。



「木漏れ日の妖精ってね、初めて会ったときのメトゥスのことだよ」


「私?」


「そう。葉の間からもれる光に銀色の髪がキラキラ光っててね、綺麗な顔した少年が私と母なる女神に驚いた姿がとても印象的だったの。だって、驚いているのに無表情なのよ!」


「無表情で驚く……それは無理があるのでは?」


「そんなことないよ。メトゥスはあまり表情に出ないけれど、ちゃんと変化はあるしけっこう目が語るの」



 自覚のないプリメトゥスは首を傾げる。



「ああもう、何気ない仕草まで綺麗ってどうなの。とにかくね、そんなメトゥスが微笑(わら)ったり驚いたりして、儚い感じで人間(ひと)っぽくなかったの。それに私を慕ってる感じなのが見えてね、それがまた可愛かったの!」



 楽しそうに語るカリタリスティーシアの瞳こそキラキラと輝いていると思うが、それを言ってしまえばきっと恥ずかしがって黙ってしまうだろう。もう少しこの姿を見ていたい、とプリメトゥスは努めて無表情を装った。

 興奮するカリタリスティーシアはそれに気が付かず、過去のプリメトゥスを褒めて、褒めて、褒めちぎる。

 真紅の女神と青銀の男神は少し離れてそれを見ていた。いつもは女神から会話を始めることが多いのだが、この時は男神が呟く方が早かった。



プリメトゥス(あれ)は、あんなに愉快な性格だったか?」


「ふふ。今はカーリ限定のようですけれど、変わりましたわね。神殿に預けられず両親の元で育てられたなら、もう少し陽気になっていたかもしれないわね」


「あれが、陽気に?」


「ほほほ、背の君の巫覡(こども)ですものね。陽気になるというより、感情表現が豊かになっていたかも、でしょうか」


「我が最愛、エイディ。私は貴女の様に笑い、怒りを表現すればいいのか?」


「まあ……エイディ、愛しいあなた。わたくしと同じことをして欲しい訳じゃありませんわ。わたくしは貴方が貴方であるから、愛しているのだから」


「嬉しいことだ。私もエイディだから愛しい」



 結局、愛し子もいちゃいちゃのネタにしかならない夫婦神だった。

 しかしイヴならばキレ散らかしたであろう会話も愛し子たちにはいつもの光景であり、ふたりに何の変化ももたらさなかった。

 むしろ、相手を褒める言葉を無意識に聞いているプリメトゥスが学習する場になっている。いちゃいちゃ会話を聞いているプリメトゥスが、いつか父なる神のようにカリタリスティーシアを褒めてみたい、などと考えているのは夫婦神すら知らない事実だったりする。



「はっ、熱く語りすぎたわ。ごめんねメトゥス」


「いいえ、褒められるのは嬉しい。楽しそうなカーリ様も愛らしくて、その姿を見られたのはもっと嬉しい。もっと褒めてもらってもいいですよ?」


「おおっとぉ? 今さらっと愛らしいとか私を褒めた? 」



 顔を真っ赤にするカリタリスティーシアに、プリメトゥスが笑顔になる。



「……綺麗な笑顔」


「カーリ様を見ていると、笑顔になれるので」


「あ、ありがとう? 私はメトゥスの笑顔を見ると固まっちゃうわ」


「それも私の幸せだ」


「そのすごい台詞、どこで覚えるの」


「常に聞こえてくる。ほら、今も」



 呆然とするカリタリスティーシアに苦笑して、少し離れていちゃいちゃする夫婦神に視線をやる。



「うん、理解した」


「素晴らしい師匠だろう?」


「そうね。私も勉強しなきゃだわ」


「充分褒められているから、暫くはこれ以上は学ばないで私が追いつくのを待ってもらいたい、かな」


「え、やだよ。顔の造りはメトゥスの方が何倍も美しいんだもの。不公平」


「世の中は不公平なものだから、諦めて」


「やだ」



 プリメトゥスはむくれるカリタリスティーシアに笑顔を向けるだけで、もう何も言わなかった。

 フランマテルム王国へ侵攻する時は、恩人が居る国を攻める罪悪感があった。再会したカリタリスティーシアと再び侵攻する時も、彼女を失った記憶に不安がついて回った。

 それが、今や彼女と美しい花を眺めて他愛ない会話が出来ている。しかも、プリメトゥス(自分)になる前から縁があったらしいと知って、嬉しかった。きっと、次の生でも己は彼女に付いていくだろう。

 こんな自分に執着心を向けられる彼女には申し訳ないと思うけれど、好みだと言ってもらえたこの容姿を余すことなく使い満足させてみせるので、許してほしいと思う。



 アーフに知られればこいつやべぇ、と後退りする希望をプリメトゥスが持っている事を知るのは、彼の仕える青銀の男神だけだ。

 その男神の思考も似たようなものだったので、己の巫覡(こども)は色々なものが似るのだな、程度で終わった。



 ニィに知られたら激怒案件だろうが、思考が読まれるのを知ったプリメトゥスは彼女の前ではそういった思考は控えている。エゥヴェには知られているような気もするが、微妙な顔をされただけだしきっと彼は何も言わないだろう。なので、プリメトゥスは気にしないことにした。



 なんだかんだと楽しい時間を過ごしたふたりは屋敷へ戻り、ヴァニトゥーナとイヴに嫌悪丸出しの表情で迎えられた。だが、ちらちらとお互いだけを見るふたりには何の問題にもならなかった。

 何しろ、カリタリスティーシアは部屋に入ってきても、イヴ等が着飾ったことにすら気が付かなかったのだ。


 ルペトゥスに「甘酸っぱいのぉ」と言われたオリカルが、笑顔で「そうでござりまするなぁ」と微笑ましく笑う。その横で「甘酸っぱ空間はいらない…」と唸るイヴ、そんなイヴの横でイーサニテルとフィダが顔を見合わせて溜息をつく。

 そんな彼らを「青春だな、兄上」と笑うドゥオフレックシーズと、「ティーシアにもああいう所があったのだな」と感心するドゥーヌルス。

 壁際で「幸せそうですわねぇ」と夫婦神がいちゃいちゃする下で、全体を見ていたアーフが「おばあ様方と同じのが増えた…」と呆然としていた。



 上階からこっそりその部屋の様子を見て、声を出してエゥヴェが笑っていたのは、誰も知らない。

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