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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
炎の巫女
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王国から

 フラエティア神殿は王国への反逆を企てた神官の処断と立て直しが必要で騒然としており、王宮も国王を軟禁する家臣とそれを黙認する者ばかりで、とても安全とは言えないという理由で、グラキエス・ランケア帝国の皇帝とフランマテルム王国でも高位にある巫女リーシェンはグラテアン邸に滞在している。

 巫女の育った邸宅で巫女と穏やかに過ごす幸せに、我が巫覡ディンガーの機嫌は上昇して留まるところを知らず、イヴの機嫌は下降の一途な日々を過ごしている。


 また、時おり夜にアグメサーケル陛下がグラテアン邸の祈祷所にこっそり現れて、巫女やニィ様とアーフと戯れたり、我が巫覡やじー様とじっ様── なぜか俺やイヴも巻き込まれる時もある ──と剣を交えたりしている。

 爺たちの機嫌も爆上がりだし、全部終わったはずの今も鍛えらる意味がわからない、とぼやくイヴの機嫌はやっぱり下がり続けている。

 そりゃまあ、フランマテルム王国の問題はほぼ解決したと言ってもいいだろうが、巫女のことは何にも解決していないもんな。


 巫女はその身をグラキエス・ランケア帝国へ置くと、フランマテルム王国の民へ宣言した。帰国前にプロエリディニタス帝国で『神問い』をする予定だ。

 半数の国民は様子見といった姿勢だったが、過激な一派には「戦闘にしか役にたたない巫女なのに氷の国仕えるなど、恩知らずが!」と叫ぶ者もいた。一般人ならば事実を説明してやれば済むのだが、一派の一部が神殿にも存在していた事が大問題だった。

 その一部神殿の阿呆の言葉を聞いた我が巫覡が、そいつを中心に一派ごと神殿を氷漬けにしてしまったからだ。

 巫女やヴァニ様を正しく敬う者には霜のひとかけらすら付かず気温の変化も感じなかったそうなので、炎の女神や父なる神も同じ様にお怒りだったのだろうと思う。

 じー様に暗殺されたと言われても、たぶん驚かないと思う。じー様以上にすげぇ顔してたイヴはって?

 スキエンテと「どこの危険地域で使役させようか」なんて、こそこそ相談してたよね。俺はなにも聞いてないよ? 行方不明になった奴はいないみたいだし、いいんじゃないかな。


 それに、神殿を代表するヴァニ様がそれはもう輝く笑顔でそいつを見ていたから、そいつと仲間等には死んだ方がましだったっていう人生が待ってるんじゃないかな。


 巫女不在の神殿でフォッサイネル・フロラリアの独裁から心ある神官サケルドース侍従リージェル侍女リージェを守り、飢餓に喘ぐ民に神殿や王宮の目を盗み食料を分け与えたヴァニ様が、フラエティア神殿の神殿長として就任することが決まった。

 神殿長になるのが面倒だと言っていたのに、なんでそんな気にになったんだろう?

 という疑問の答えは、あっさりドゥーヌルス様から返ってきた。



「ああ。ニィ様は神殿を掌握して、王国を神聖国へと移行するおつもりなんだろうね」


「ええぇ…」


小姫様(ちぃひめさま)らしいですね」


「なんでまた……」


「子孫には任せておけない、ということでしょう。教皇が国を支配する体制を作っておけば、もし間違った方向に国が進んでしまっても、小姫様が降臨して修正できますからね」


「そうだけど、強引すぎんか?」


「しかしグラキエス・ランケア帝国はカルゥ様の血統を滅ぼしてしまったし、フランマテルム王国は血統こそ残っているけれど国の成り立ちを忘れてしまったじゃないですか」


「あー」


「まともに存続しているプロエリディニタス帝国と同じ方法を使う事にしたんでしょう」



 イヴはそう言うが、まだ納得しかねる俺にドゥーヌルス様が付け加えた。



「ニィ様はたぶん、今後のカーリィ様に記憶のすべてが受け継がれず、変わっていかれると思われているのだよ」


「?」


「お姫様(ひいさま)が巫女として選ばれない人生も在り得る、ということですよ」


「そうだね、そうなってから国を変えていては間に合わない。ニィ様の望みはカーリィ様が穏やかに、幸せに過ごせる環境を作ることだ。ご自身が国の頂点に居ればやりやすいだろう?」



 そういう事か。

 グラキエス・ランケア帝国が望まぬ存在となっても、プロエリディニタス帝国とフランマテルム王国、いやフランマテルム神聖国が手を結べば、ひとりの少女の環境くらいはどうにかできるだろうってことなのか。



「そうだけど、思い切ったことするなぁ」


「ニィ様は、カーリィ様をずっとお守りすると決められたんだよ」


「今までもそうだったのではないですか?」


「いいや。今までは『共に生きていく』という、カーリィ様の側仕えの少年と同じ願いだったよ」


「小姫様は『共に』居られなくてもいいと?」



 ドゥーヌルス様はイヴの返しには答えず、薄く笑うだけだった。



 そんなに上手くいくかなという不安は、すぐに解消された。




 今俺は、我が巫覡と巫女、アールテイとイヴ、そしてじー様と、フランマテルム国王カリドゥースと新宰相となったドゥーヌルス様、そして宰相補佐に指名されたプロキシルム侯爵ソノルース、王宮騎士団パラーティルム団長に就任したコンセルヴァティオ公爵アルドールと面会している。

 質素な会議室のような部屋で一同が座って静かに茶を飲んでいると、新たなる人物が入室してきた。



「お待たせして申し訳ありません、みなさま」


「いや。神殿長は忙しいだろうが、一息つかれるがよかろう」


「まあ。ありがとうございます、プリメトゥス陛下。お姉さまの横に座りたいのです、席をずれていただけません?」


「反対側が空いてますよ、ヴァニトゥーナ殿」



 輝く笑顔で、みみっち…些細な口喧嘩をする我が巫覡とヴァニ様だった。

 いつもの見慣れた光景だ。もうすぐこの喧嘩も見なくなると思うと、寂しくな…らないな。うん。



「なんて意地悪をなさるのかしら。ねえ、お姉さま」


「意地悪じゃないと思うな、ヴァニ。帰りは私がアーフに乗って送るから、今は決められた席に座ろう?」



 器用に嬉しいけれど寂しいという難しい表情を浮かべて、ヴァニ様はカリドゥース王の横に座った。




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