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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
炎の巫女
234/235

甘酢っぱ空間

 中央に鮮やかに咲く真紅の花を囲む様に、様々な色の花が配置されている。花畑とも言えそうな広い花壇の後ろには、人間の背丈より少しだけ高く緑の樹木が整えられていた。

 その樹木の壁で迷路の様な通路が作られているのだ、とカリタリスティーシアは言った。庭園には炎の女神のお能力(ちから)が働いており、義母デフォラピスは花畑には長居できず樹木の道には足を踏み入れることができなかったらしい。

 ヴァニトゥーナや兄たちも散歩を口実に、義母の目から逃れてよく逃げ込んでいたとか。長兄からそれを聞いては私も一緒がよかったと腹がたったものだ、と少しむくれるカリタリスティーシア。


 そんなカーリ様も愛らしい、と話を聞いているのか怪しい思考をめぐらすプリメトゥスであった。



「美しい花ですね。中央の花は、カーリ様の生み出す炎に似ています」


「ふふ、ありがとう。ねえ、その言葉思ったまま話すとどんな感じ?」


「言葉の通りですが?」


「むぅ。じゃあ、侍従ディジャーくんや神殿長(おじーちゃん)に同じ事を話すとしたら」


「……あの紅色の花は、カーリ様の生み出す炎に似てとても美しいと思う。でしょうか」


「真顔で褒めちぎったよ! すごいわ…」

「その口調でいこう、メトゥス。私はメトゥスが尊大でも全然気にしないし、むしろその顔で敬語使われるよりずっと親近感が湧いて嬉しいわ」


「……努力しま、する」


「楽しみにしてます」



 無意識に少しだけ眉が寄ったプリメトゥスの顔を、『美形はどんな顔しても見ごたえあっていいわ~』とこれは口に出さず堪能するカリタリスティーシアだった。

 ふたりしてドン引きな思考をしまくっていたがそれは口にしなかったので、端から見れば見目麗しいふたりの微笑ましい一瞬にしか見えなかった。

 彼らの背後上部で真紅の女神と青銀の男神がその思考を読み、顔を見合わせてため息を吐いていたことに、その愛し子たちが気が付く事は無かった。



「カーリ様は、私の顔を見て面白いので……面白いのだろうか?」


「面白いというより、楽しいわ。メトゥスの容姿がとっても好みだから、どんな表情でもずっと見てられると思う」


「この顔に生まれて、幸運だ」


「はわっ。それよ、そのはにかんだ感じの笑顔、素敵! 初めて会ったときと同じ。あの時の少年がこんな美しい青年になったのを見られて、私も嬉しい」



 満面の笑みを浮かべるカリタリスティーシアの、やっぱりドン引きしそうな言葉にも、この笑顔を引き出せる顔を持って生まれてよかった、と心から思うプリメトゥスはアールテイに言われていた事を思い出す。



「そういえば、カーリ様。疑問に答えてもらえると有難いのだが」


「何かな?」


「木々の精霊、木漏れ日の妖精とは?」


「おっふ。え、どこでその言葉を聞いたのかしら……」


「アールテイがあの白い結界を偵察した帰りに口にしていて、すべて終わったらカーリ様に聞いてみろ、と」


「アーフってばもう」



 動揺する心を表すように、カリタリスティーシアは樹木の迷路へと速足で足を進めた。

 カリタリスティーシアが目に見えて動揺する姿が珍しく「やだどうしよう…」と小さく呟く彼女に追い付かぬよう、プリメトゥスは少し遅れて後を追った。

 往生際わるく「やだもう」と言う言葉と同じ速度で足を繰り出し早歩きで先を行くカリタリスティーシアだったが、長身のプリメトゥスは足も長かった為に普通に歩いてもしっかり付いていけていた。

 本来の彼女であればそれも「素敵だわ」と感動するところだが、プリメトゥスを置いて歩きだしたことすら気が付いていない。


 目の前で揺れるカリタリスティーシアの真紅の髪の先すら愛らしい、と更にドン引きな思考で目の前の少女の後ろ姿に集中して歩くプリメトゥス。

 『その気持ちはよく分かる、いつも私も同じことを思う』『まあ、なんて嬉しいこと』とか、お約束な会話を繰り広げるもうひと組の会話も、やはりカリタリスティーシアとプリメトゥスは聞いていなかった。


 あまり長くはない時間で樹木の道の終わりにたどり着いた所で、カリタリスティーシアはやっと正気に返って立ち止まる。

 慌てて振り返った彼女が見たのは、記憶に残る木漏れ日の妖精と呼んでいた少年と同じ── 目を細めとても嬉しそうな ──笑みを浮かべる、美しい青年だった。



「ごめん、勝手に進んじゃったわ」


「いいえ……いや、慌てるカーリ様も愛らしくて、楽しかった」


「なにそれ、やだもう。メトゥスは何で私をそうも褒めるのよ」


「おや、カーリ様も同じでは? 私がどんな反応をしても、褒めてくれるというのに」


「それもそうね」



 同じだわ、とまたも顔を合わせて笑うふたりであった。




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