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九戸さんの長い一日  作者: うずら


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6/12

五日目 汚屋敷、汚部屋、奇麗な実験室。

翌日――。寿美香は、法木博士の自宅へと足を踏み入れていた。


昨日の事を踏まえ、私有地への立ち入りも物品の回収も合法的な手続きを済ませている。閑静な住宅街の一角にある法木の自宅は、主を失ったかのように静まり返っていた。


「にしても……きったないわね……」


汚い、汚部屋どころではない、汚屋敷である。

あまりにも気持ち悪いので、一度自宅に戻りTシャツとデニムに着替え土足で上がった。スーツ汚したくないし、怪我したくないし、G(ゴキブリ)とかN(ネズミ)とか踏みたくないし。

そのゴミ屋敷の一角、住宅に似つかわしくない重厚な扉を発見する。


「これ見よがしな扉ね。大学の実験室みたい」


扉を開けると、地下へと降りる階段があった。かなり急だったので、慎重に降りる。ここはさっきまでと打って変わって、チリ一つ落ちていない。


「研究以外、無頓着な人だったのね……」


2枚目の扉を開け、中に入る。……まんま実験室である。よくもまあ、こんな住宅街の中にこんなもの作ったものね。お金は何処から出てたのかしら?

それにしても上とはずいぶん違い資料は整然と並べられ、床も机の上も奇麗である。

そんな部屋の真ん中、何かしらの機械を発見した。


「これは?……まったく解らないわね。これ全部持ってくのも大変だし……」


私は周囲の資料に目を通す。その中にあった1つの分厚いファイルのタイトルが目に留まった。


「タイムマシン作成記録ーNo.13?……マジか、あのぼろほうき……」


正気を疑う。いや、そういう奴だったわね、大学に居た頃にもいろいろやらかしてたし。

ページをパラパラとめくる。そこにはある1文が頻繁に出てくる。

『クロノタイト』

……語感からして何かしらの物質?改めて書類棚に目を向け、最初のナンバー、――タイムマシン作成記録ーNo.1――を手に取る。

そこには、何かの機械の設計図があった。いや、『何か』ではない。


「これって……こいつの設計図……よね?」


図面と謎の機械を見比べる。うん、素人目に見てもこれだと解かる。と、いうことは……


「この図面のこの部分、これがクロノタイト?」


傍らにあった工具で、繋がれていたケーブルと固定具を外してクロノタイトと名付けられた金属を取り外す。資料と共に運び出し車に詰め込んだ。ついでに内部の写真も撮っておいた。私が手に持ってるとちゃんと写るのよね。


「……次は助手の家ね」


私は荷物を積むと車に乗り込み、もう一つの目的地へと向かう。かつて法木と共に研究室を盛大に爆破させ、退学処分となった元助手――地ノ里(ちのさと) 徹(とおる)のアパートだ。


こちらもまた、予想を裏切らない散らかりようだった。


「うえぇ……汚部屋パート2……勘弁してよ……」


ゴミをかき分けるように中へと入る。ベッドの上と机の周りくらいしか、まともなスペースがない。とにかくゴミだらけだ。

しかしその部屋の数少ないスペースの机の上で、私は決定的な証拠を見つけ出す。無造作に置かれたスマホを手に取り、中身を確認する。膨大な写真や動画の中に1つだけ異質なものを見つけた。


「これは……他はパリピな動画ばっかだけど、なんで山歩きの動画が?」


ただ、山道を行く動画。だが時々声が聞こえる。


『教授~まだっすか~?』

『もう少しだ、それと博士(はかせ)と呼ぶように言っただろう』

『あ、すんませんっす』

『しっかりビデオは撮れているのだろうな?私の輝かしい第一歩になるのだからな』

『もちろん、バッチリっす』


しばらく二人の足音だけが続き……そして。


『ここだ』

『うえ?ここ、市の管理区域っすよ?』

『その管理を、私がしていると言ったら?』

『なるほど~!でも、よく入り込めたっすね?』

『蛇の道は蛇というだろう』

『なるほどっす???』


動画には『市有地につき立ち入り禁止』という看板が貼られたフェンスが映っており、その向こうにトンネル?洞窟?の入り口が見えた。


『さあ、ここから私の輝かしい第一歩が始まるのだよ!!』

『それ、さっきも言ってなかったっすか?』

『何か言ったかね?』

『いいえ何も。さあ、行くっすよ~』


「ここは一体?……一度戻って調査団メンバーに聞くとしますか」


事態の核心へ近づいている手応えを胸に、私は一度拠点へと引き返し、正規の手続きを経て「市管理区域の洞窟」への立ち入り許可を取り付ける。手続きを素早く済ませ、すぐさま車を走らせて郊外の山へと向かった。


車を降り、冷え切った空気が漂う山道を歩き、目的の洞窟へと足を踏み入れる。しばらく歩を進めた私の前に現れたのは、市のインフラとは似ても似つかない、あまりにも場違いな光景だった。


岩肌に直接埋め込まれたかのような、重厚で最新鋭のハイテクな扉。

無機質な金属光沢を放つその扉は、まるでこの世界の理から切り離された異物のようだった。


「……これ、市が設置したものじゃないわよね?」


しばし、扉を眺める。これ、多分だけど大企業とかにある、カードキーで開く扉よね。だってほら、カードをタッチする端末とかあるし。


「それらしきもの有ったかしら?なかったと思うんだけど……」


何か見落としてるのかもしれない。もう一度法木たちの家を調べるか……いや……。


「もう遅いし、あんな汚部屋もう一回入りたくないし、和真くんに引き継いで明日にしましょうか」


今日集めた資料に手がかりが無かったら、もう一度入ることになるんでしょうけど……。

……嫌だなぁ……。

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