↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
九戸さんの長い一日  作者: うずら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/12

三日目その2 針の根元

和真くんを見送り、私は一人で公用車の運転席に乗り込んだ。

車を走らせ、黒野市外環状道路の中央分離帯を越える。

一歩「壁の中」の静止空間に潜入した瞬間、世界から一切の音が消え失せた。聞こえるのは、この車のロードノイズだけだ。

今回の任務は、この異変の原因を探ること。

昨夜自分で作ったルートマップに従って、私は街の中心部へと車を走らせた。


最初は、ただ不気味な静寂に圧倒されていた。だが最初の目的地である、街のシンボルを冠した大通りの時計塔の前で車を路肩に止め、フロントガラス越しにそれを見上げる。

巨大な文字盤が指している時間は「08:00:05」。

この世界が停止した、あの運命の瞬間のままだ。


気を取り直して、さらに車を中心部へと進める。

次に通りかかった銀行のデジタル壁時計に目をやった。電光掲示板の赤い数字は、ピタリと止まっている。


「……08:00:03?」


私は思わず、自分の腕時計と見比べた。私の時計は、今も現実の時間をカチカチと進めている。

おかしい。さっきの時計塔は「5秒」だった。なのに、なぜこの銀行の時計は「3秒」で止まっているのだろう。


胸を突く予感に突き動かされ、私はさらにアクセルを踏み込んだ。

商店街の時計、ガソリンスタンドの看板に設置された時計、通り過ぎる車の中のデジタル表示。

確信は、すぐに氷解して事実へと変わった。

中心部へ近づけば近づくほど、街の時計たちは「08:00:05」→「08:00:03」→「08:00:01」と、より早い時間で固まっている。つまり、中心に行けば行くほど、この時間停止現象が「発生した瞬間」に近づいているということだ。


この黒野市は、「アナログ時計の文字盤」を模して作られた、中央から放射状に広がる特殊な都市計画で作られている。

なんでも江戸時代、この辺りを治めていた藩主が、新しもの好きで時計を手に入れた感動から、街作りにまで反映させたのだとか。その上、藩内で時計作りを奨励し、ついに一大産業にまでなったという。工大があるのもその名残だそうで。


そのすべての針が集まる根元。同心円の中心点にあるのは、どこかというと……。

ルートマップと、頭の中の街の記憶が、パズルのピースのようにカチリと噛み合った。


「……黒野工科大学」


私がキャンパスライフを送った母校だ。

間違いない。この時間停止は私の母校を発生源として、同心円状に外側へ向かって広がっていったんだ。


ゾワリと、背中に冷たいものが走った。

これは、ただの自然現象なんかじゃない。あそこ(大学)で、何かが起きたんだ。

私は大学へと車を走らせる。その時、ある変人元教授の事を思い出していた。


大学の駐車場へ車を止め、懐かしさを感じながらキャンパス内の探索を始める。


「そういえば卒業ぶりだな……あのブラック企業め、学園祭にも来れなかったじゃない」


ふと、モラハラハゲ上司の顔を思い出し、怒りが沸き起こる。とはいえ、大学時代のサークル仲間に弁護士になった子がいたから、その子に頼んでがっつり諸々ふんだくってやったけどね。


さて、そんなことを考えながらキャンパスを調べるが、めぼしいものは見つからない。私は昼食を摂るために、中庭のベンチに腰を下ろした。

サンドイッチを口に頬張りながら、思考を巡らせる。

(……時間停止……時間……タイム……マシン、そんなこと言ってた変人がいたような……)

そうだ、あいつだ!


「ぼろほうき……まさかあいつが?」


いやいや、まさかそんなことできるはずがない。私なんか足元にも及ばないような偉い学者さんも、タイムマシンは存在しえないって言ってたじゃないか。

それでもあの変人の事を思い出したのは訳がある。

私がここへ入学した年の学園祭、そこである大事件が起こった。

「ぼろほうき」こと法木博士(のりきひろし)教授が、爆発事故を起こしたのだ。

それまでも様々な奇行で知られることで有名だったのだが、この事件であっという間にクビになってしまった。

助手として付いていた学生も一人、退学処分になっていた。


「あの二人の手がかりが見つかれば、進展があるかも」


私は大学の職員室や資料室なんかを捜索し、日がすっかり暮れる頃――と言ってもこの異変の中では変化がないのだけれど――必要な書類を手に入れたのだった。


え? 窃盗じゃないのか? 消費財の使用ルールはどうした?

そんなこと言ってる場合じゃないわ。もし時間を戻せる目途が付いたら、その時戻せばいいのよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
不可視壁対策本部に入る前の素美香の限界生活っぷりも良かったですけど、個人的に母校の捜査に入ろうとした時、ブラック企業の上司のせいで文化祭に行けなかったことを思い出して、怒るところが面白かったです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。