業務メモ、あるいは祖父は一人で十分だった
<依頼らしきもの>
「この昔の店、まだあります?」
「この人に箱を返しておいてくれないか」
「この帳簿の名前、誰のことかわかる?」
「あなたの家の蔵に、こういう形のものありませんこと?」
「この老人が昔どこに勤めていたか、少し聞いてきてくれ」
etc.
<在勤記録・メモ>
四月某日
依頼:旧市街の時計店が現在も営業しているか確認。
依頼人:古参女性。
結果:閉店。店主は五年前に死去。息子が倉庫を管理。
備考:「店には入るな」と言われていた。店には入ってない。
五月某日
依頼:木箱一個を元使用人へ返却。
条件:開封禁止。
結果:受取拒否。
備考:三回確認したが「知らない」の一点張り。箱を見せる前は知っていた。
報酬:依頼主に報告すると、報酬としてその木箱を渡された。なんだこれ?
七月某日
依頼:古い帳簿に記載された呼び名の確認。
結果:二名判明。一名死亡。一名不明。
備考:専門家に聞け。
九月某日
覚書:以前、巻貝を使った器具を見かけたら、知らせてほしいと言われていた。
発見:蔵ではなく、箱の中で発見。
備考:貝の中には鍵があった。
追記:伝える相手は既に亡くなっていた。
十月某日
依頼:老人一名の勤務歴確認。
結果:本人の申告と公的記録が三年ずれる。
備考:依頼人へ報告済み。理由不明。
追記:そういうことは最初に言え。
<嫌な予感>
彼は気がついた。
「……待てよ」
「どうしたのかしら?」
思わず口をついて出た独り言だったが、ご婦人が振り返る。
ならば続けなければいけない。
「爺さんのところにいた頃と変わらない」
「?」
「仕事を片付けると、次の仕事が出てくる」
「ええ」
「理由を聞くと『そのうち分かる』と言われる」
「まあ」
「終わった頃には妙に事情に詳しくなってる」
「ふふふ」
その笑みを見て、すんでのところで次の言葉を飲み込んだ。
幼少の頃の記憶がフラッシュバックする。
ご婦人に頬を張り飛ばされる、祖父の姿を……。
とてもじゃないが、この場で口にはできない。
祖父の仕事の無茶振りが、この社交界で分散され、システム化されているなんて。
<聞こえてきた話>
「この名前、どこかで聞いたら覚えておいて」
「この紋章を見たら写真だけくださいな」
「昔こんな箱があったのだけれど」
「この人、まだ生きているかしら」
「旧紙幣があったら交換してくれ」
etc.




