ご婦人の余談、あるいは小熊くんのこと
最初に見た時、あの子はまだ小さかった。
おじいさまの後ろに立って、場の空気だけ読んでいた。
怯えてもいないし、馴染んでもいない。
ただ、静かに見ていた。
あの目が少し引っかかった。
あなたも見たでしょう?
ああいう目をする子は、そうそういないのよ。
おじいさまとのことは、まあ、長い話よ。
互いに何度か間違えて、何度か正しくて、最後は修羅場になった。
あの子はその修羅場の隅にいた。
止めもしない。
逃げもしない。
ただ見ていた。
後から思えば、あれが答えだった。
肝が据わっているのか、
ただのぼんやりなのか、
その時はまだわからなかった。
でも引っかかりは残ったのよ。
そういうものでしょう?
それから間が空いた。
おじいさまが逝って、葬式で再会した。
私に正式な席はなかった。
けれど、席を空けておけるほど、あの家は私を軽くも見られなかった。
箸渡しの相手に、あの子が寄越された。
家の者の側にいて、けれど家そのものではない子。
そういう場所に、置かれる子だったのよ。
背が伸びていた。
顔立ちが整っていた。
でも目だけは変わっていなかった。
まだ静かに、何かを見ていた。
大学生らしい。
家を出て、一人で仕事を回しているらしいと聞いた。
色々と使えそうだと思った。
面白いとも思った。
もちろん可愛いとも思ったわ。
社交界に連れて行ったのは、単純な興味だった。
場に出して、どう動くか見たかった。
結果は予想より面白かった。
伴奏のつもりで来ているのに、妙に目立つ。
目立とうとしていないのに、場が少し止まる。
しかも本人は気づいていない。
おじいさまの見立てだけは、正しかった。
場が少し荒れた夜があった。
あの子の目の温度が変わるのを、私だけが見ていた。
やはり、ぼんやりしているだけではなかった。
処理が終わった後、また何事もなかったように戻った。
胸に挿した花は折れていなかった。
ね、そういうことでしょう?
いつのまにか彼女ができていたの。
聞いた時、少しだけ笑ってしまった。
あの子ったら黙っているつもりだったらしい。
遅いわね、と思った。
でも、間に合ったわね、とも思った。
私が若かったら、あの子を怪物にしていたかもしれないから。
拾ったつもりが、いつのまにか育てていた。
ここまでドラ息子になるとは、思っていなかった。
でも女を見る目はあった。
今はただ見ていたい。
歳をとるのも、悪くないものね。




