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記事 顛末、あるいは雇用

 <新聞記事>


 市内の旧邸宅で昨日、建物内部の一部を焼く火災が発生した。


 消防などによると、出火当時、邸宅内には所有者の親族や関係者ら複数人がおり、数人が打撲や切創、煙を吸うなどして手当てを受けた。いずれも命に別状はないという。


 火災は食堂付近から発生したとみられ、室内の壁や家具などを焼いた。一部の壁が崩落したほか、建物内部からは用途不明の音響設備とみられる機器も確認されている。


 また、現場では小型無人機が破損しており、搭載されていたリチウムイオン電池が出火に関係した可能性もあるとして、消防と警察が詳しい原因を調べている。


 邸宅は明治期に建てられた建築物を改修し、一部を見学可能な施設として利用していた。今回の火災を受け、当面の間、一般公開を休止する。


 関係する研究施設についても、建物内で確認された設備との関連を調べている。




 <週刊誌>


 名家を襲った火災、その壁の中に何があった?

 ――「隠し部屋」「謎の音響設備」、そして火災当日に集められた一族


 由緒ある旧邸宅を襲った火災について、奇妙な噂が広がっている。


 問題の邸宅は、明治期に建てられた歴史的建造物。近年は改修工事が進められ、将来的には一般客の受け入れも検討されていたという。


 火災そのものは大規模なものではなかった。


 複数の負傷者が出たものの死者はなく、消防の到着後、火は消し止められている。


 ところが問題は、その後だった。


 消火活動と避難の過程で室内の壁の一部が崩れ、その内部から、用途不明の設備が露出したのである。


 関係者の一人はこう話す。


「最初は音響設備だと思いました。地下に小さな舞台がありますから。改修に合わせて、何かイベントでもするのだろうと」


 しかし、露出した設備が通常の音響設備だったのかについては、現在も確認が続いているという。


 さらに本誌の取材では、この邸宅に出入りしていた研究関係者と、ある研究機関との接点も浮かび上がった。


 同研究機関をめぐっては以前から、子供の聴覚に関する研究や、研究協力者の選定方法について、一部で疑問の声があった。


 今回発見された設備との直接的な関係については明らかになっていない。


 だが、もっと奇妙なのは火災が発生した日の集まりである。


 この日、邸宅では一族による私的な会食が行われていた。


 出席者の中には、長く実家と距離を置いていた若い男性と、そのパートナーの女性も含まれていた。


 男性を知る人物は言う。


「家とはずっと疎遠だったはずです。家業を継いだという話も聞きません。むしろ別の仕事をしている人ですよ。なぜ今になって呼び戻されたのか、それが不思議でした」


 この男性について調べていくと、さらに不可解な話が出てくる。


 一族の中では、彼の「家での立場」が長年曖昧だったというのだ。


 ある関係者は「戸籍上の関係と、家の中で呼ばれていた関係が、単純には一致しない」と話す。


 別の人物からは、さらに踏み込んだ証言も得られた。


「昔から、婚外子がいたという噂はありました。ただ、誰の子なのかとなると、話す人によって違う。亡くなった子供の話まで混ざってくるので、外の人間には何が本当なのかわかりません」


 もちろん、これらはあくまで周辺の証言と噂である。


 だが火災当日、久しく距離を置いていた男性がパートナーを伴って実家を訪れ、その席で何らかの話し合いが行われていたことは、複数の関係者が認めている。


 そして、その最中に騒動が起きた。


「かなり揉めたようです」


 そう話すのは、近隣の関係者だ。


「救急車だけじゃなくて消防まで来たでしょう。後から聞いたら、火事になる前にも中で騒ぎがあったとか。何を話していたのかまでは知りませんけどね」


 一方、邸宅関係者は「火災と家族間の話し合いを結びつける根拠はない」としている。


 火元については、小型機器に使用されていたリチウムイオンバッテリーが関係した可能性が調べられている。




 この小型機器についても妙な話がある。


 火災当日に持ち込まれていたのは、小型ドローンだったというのだ。


 なぜ名家の顔合わせにドローンが必要だったのか。


 男性は建物調査などにドローンを使用する仕事をしており、当日も仕事の説明をするために持参していたとの証言がある。


 さらに車内には3Dプリンターまで積まれていたという。


 一見すれば、ずいぶん物々しい顔合わせである。


 もっとも、これにも一応の説明はつく。


 ドローンも3Dプリンターも男性が実際に仕事で使用する機材であり、当日は遠隔地での部品製造について説明する予定だったという。


 そのため、邸宅のスタッフが「モニターを探していた」との話もある。


 つまり、一つ一つを取り出せば不自然ではない。


 改修工事中の歴史的建造物。


 地下の舞台。


 イベント用とも説明できる音響設備。


 警備用品。


 建物調査用のドローン。


 現場で交換部品を作るための3Dプリンター。


 そして、久しぶりに実家へ戻った息子。


 どれも、それだけなら説明がつく。


 それにもかかわらず、なぜこれほど奇妙に見えるのだろうか。




 そして最大の疑問は、壁の中にある。


 なぜ設備は、壁の向こうにあったのか。


 改修工事の途中だったからなのか。


 単なる収納スペースだったのか。


 それとも、一般客の目に触れさせる予定のない設備だったのか。


 さらに取材を進めると、別の噂も耳に入った。


 この地域ではかつて、一部の子供だけが聞き取れるとされる「音」をめぐって、奇妙な研究が行われていたという。


 真偽は定かではない。


 だが今回、壁の内部から発見された設備が音に関係するものだったことから、過去の噂と結びつける者も現れている。


 ネット上ではすでに、古い怪談や「子供に聞かせてはいけない音」の話まで掘り起こされ始めた。


 ただし、それらと今回の火災との関連を示す証拠は、現時点では確認されていない。


 火災。


 家族間の揉め事。


 婚外子をめぐる古い噂。


 研究機関。


 子供の聴覚。


 壁の中の設備。


 そして、一般公開を目前に控えた歴史的建造物。


 どこまでが偶然で、どこからが一本の線なのか。


 一つ一つには説明がある。


 だからこそ、すべてを並べた時の奇妙さが際立つ。


 なお本誌では、火災当日に現場に居合わせ、避難誘導や救助にも関わった一族の関係者への取材にも成功している。


 男性は、火災以前からこの家に雇用され、当日の会食にも業務として関わっていた人物だ。


 久しく実家を離れていた男性への招待状を、直接届けた人物でもあるという。


 彼は何を知っていたのか。


 なぜ招待状を届ける役目を任されていたのか。


 そして壁の中の設備を、本当に知らなかったのか。


 その証言については、独占インタビューとして別稿でお伝えする。




 <独占インタビュー>


 旧邸宅火災、現場にいた男性が語る

 ――「私は雇われですので」


 一般公開に向けた改修工事が進められていた旧邸宅で発生した火災について、当日、現場にいた施設関係者の男性が取材に応じた。


 火災では複数人が負傷。建物内部の一部が焼損したほか、壁の内部から用途の確認できていない音響設備のような機器が見つかっている。


 また、当日は親族らが集まる私的な会食が開かれており、火災発生前には参加者同士のトラブルもあったという。


 男性は邸宅を所有する一族に雇用され、当日は来客対応や避難誘導などを担当していた。


 ――以前から、この邸宅に勤務していたのですか。


「必要な時に仕事をしていました。常駐ではありません」


 ――一族とは長い付き合いなのでしょうか。


「雇われですので」


 ――火災当日は、親族の集まりだったと聞いています。


「はい。お食事をされていました」


 ――あなたも室内に?


「出入りはしています。ただ、騒ぎが大きくなった頃には別の場所にいました」


 ――何をしていたのですか。


「モニターを探していました」


 ――モニター?


「食事を運んでいた者から、必要になるかもしれないと聞きましたので」


 ――何に使う予定だったのでしょう。


「3Dプリンタの出力を映す、と聞いています」


 ――なぜ会食で3Dプリンタを?


「ご子息が、仕事の説明をされていたようです。遠隔地へデータを送り、現地で必要な部品を出力する仕組みを、その場で簡単に再現すると」


 ――宇宙開発などで利用される仕組みでしょうか。


「そのような説明だったようです」


 ――プリンタは邸宅内に?


「車に積んであったそうです」


 ――ご子息の車ですか。


「そう聞いています」


 ――そのご子息は、ドローンも持ち込んでいた?


「はい」


 ――火災現場で破損していた無人機でしょうか。


「おそらく」


 ――ずいぶん多くの機材を持って、親族の会食へ来たのですね。


「仕事でも使われる方ですので」




 男性によれば、無人機は建物の調査などに使用されるもので、赤外線カメラを搭載した機体や、床下などを走行できる機体もあったという。


 旧邸宅では一般公開を見据えた老朽化対策が進められており、当日の会食でも、無人機を建物調査に利用できるのではないかという話が出ていた。


 ――あなたは火災の前から、ご子息をご存じだった?


「はい」


 ――火災の少し前、社交場でご子息に手紙を直接渡したという話があります。


「はい。お渡ししました」


 ――何の手紙ですか。


「招待状です」


 ――この日の会食への?


「はい」


 ――なぜ、あなたが社交場まで出向いて直接?


「雇われですので」


 ――ご子息とは、どの程度の関係だったのでしょう。


「お顔とお名前は存じています」


 ――それだけですか。


「何をもって『それだけ』とするかは、私には判断できません」


 男性はそう答えた後、少し考えてから「招待状を届けられる程度には存じています」と付け加えた。


 火災当日の混乱について尋ねた。


 ――室内では乱闘があったとの証言があります。


「私はその場を見ていません」


 ――警棒を持ち出したスタッフもいたそうですね。


「テロ対策だと聞いています。現に警備用品として正式なモデルだったそうです」


 ――しかし、実際に使用された。


「乱闘があったのでしょう。それ以外で使う場面が、私には思い浮かびませんが」


 ――なぜ乱闘になったのでしょう。


「そこまでは」


 ――ご存じない?


「その頃にはモニターを探していましたので」


 ――戻ってきた時には?


「非常口が塞がれていました」


 ――何があったのですか。


「瓦礫です。ですから、最初は中には入りませんでした」


 ――中に人が残っていた?


「はい」


 ――どうしたのでしょう。


「消火器を渡しました」


 ――瓦礫越しに?


「はい。手が届きましたので」


 ――その後は?


「通れる程度に瓦礫を除けました。下敷きになっていた方を移動させて、奥様のところへ向かいました」


 ――救助のため?


「はい」


 ――危険ではありませんでしたか。


「火事でしたので」




 男性によれば、建物は火災の前後から「傾いているような感覚」があり、現場では混乱が広がっていたという。


 消防への通報と並行し、男性は火災報知設備を作動させ、来客らに避難を促した。


 ――火災報知器を鳴らしたのは、あなたですか。


「はい」


 ――なぜ火災だと判断したのでしょう。


「『火事だ』と聞こえましたので」


 ――誰が叫んだ?


「中にいた女性だと思います」


 ――確認せずに警報を?


「煙も出ていました。火事でなければ、あとで謝れば済みます」


 今回の火災をめぐっては、邸宅内部から見つかった設備にも関心が集まっている。


 壁の内部からは、古い音響機器を思わせる装置が確認された。関係する研究機関が設置に関与した可能性も指摘されている。


 ――あの設備について、以前から知っていましたか。


「機材が入っていることは知っていました」


 ――用途は?


「イベント用の音響設備だと思っていました」


 ――なぜそう思ったのでしょう。


「地下には舞台とダンスホールがあります。一般公開後に催し物をする話もありましたので」


 ――壁で塞がれていた部屋については?


「改修の一環だと思っていました。物置にする話だったか、エレベーターを設置する案だったか。その辺りは担当ではありません」


 ――研究設備だとは知らなかった?


「少なくとも、私はその説明を受けていません」


 ――一部では、建物内で不自然な振動があったという話も出ています。「人工地震」という言葉までありますが。


 ここで男性は初めて、少し長く考えた。


「人工地震、ですか」


 ――ご存じありませんか。


「さあ。工事中でしたから、その振動か何かをそう呼んでいたのでしょうか」


 ――心当たりは?


「工事なら」


 ――人工地震については?


「質問の意味が、よくわかりません」




 男性は、それ以上答えなかった。


 取材の最後に、改めて一族との関係について尋ねた。


 ――あなたは施設スタッフという以上に、一族の事情をご存じなのでは?


「長く仕事をすれば、知ることは増えます」


 ――ご子息の招待状を直接届け、邸宅内部の改修状況も把握し、火災時には奥様を救助している。それでも「ただのスタッフ」なのでしょうか。


「私は『ただの』とは申し上げていません」


 ――では、あなたは何者ですか。


 男性は少し困ったように笑った。


「雇われです」


 ――あの日の救助も仕事だった?


「そうですね」


 ――危険を冒してまで?


「仕事でしたので」

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