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噂話 ボトルトス、あるいは合法賭博

「ねぇ、雀の姐さん、ホストなのにパスしたんですって?」

「ええ。しかもシガールームにはいたらしいわ」

「まぁ、すぐ隣なのに……ついに足が悪くなったかしら」

「それがね、相手をしてたのが勇者なのよ」

「浮気?」

「いえ葉巻を吸ってたのが姐さんだけみたいなの。それにね」

「何よ」

「吊るし首とか、火力とか、魔除けがどうとかって」

「物騒ね。魔女狩りでもするのかしら?」

「ええ。でもちょっと気になるわね」

「気になるなら?」

「……トスする」

「本気?」

「だって、その方が集まるわ」

「出資者が?」

「噂話が、よ」




 ――勇者がシガールームで、手紙を受け取ったらしい

 ――トス

 ――トス

 ――トス

 ――トス




「おい、バーの新しいボトルトス、お前どうする?」

「どうするって、ラベルのテーマは?」

「勇者」

「勇者って、あいつのことか?」

「それ以外いるか?しかもダブルボトル」

「はぁ?!聞いたことないぞ!」

「俺もない!」

「ホストは?」

「雀羅の姐さん」

「期間と指定人数は?」

「無期限の無指定だ」

「バースタッフが決済タイミング決めるやつだな」

「ああ。バーの売上げ次第では、早く締め切られる可能性もある」

「もしかして、トスした順番もわかるやつか」

「そう、ルール全盛り」

「どうする?」

「そんなの、まだ決められん」

「なんでだ?もうだいぶトスされてるぞ」

「帳簿に、この件について署名することになるからだ」

「……やばいのか?」

「わからん」

「心当たりがありそうだ」

「まぁ、な」




 ――内部告発書類が出たらしい

 ――トス

 ――トス

 ――トス

 ――ロスト




「バーに置いてある勇者のボトル見た?」

「ああ、あのやたらと高いボトルね」

「あれ、ホストが雀さんなんでしょう?」

「らしいわね」

「前回パスしたのに、すぐにボトルを立てるなんて」

「しかもタイミング的に、パスした不義理のコインがかかった空ボトルと、高額ボトルが並ぶのよ」

「そんなので、出資者が集まると思ってるのかしら」

「……それがね、集まってるのよ」

「ええ?!どんな柄なの?」

「シガールームの常連たち」

「何かあったのかしら?」

「さあ、でも、火のないところに煙は立たない」

「ありきたりな結論」

「ええ、でも真理よ。それとも……」

「何よ」

「確認するには、火元に近づかないといけない」

「その価値がある?」

「勇者のボトルなら、ね」




 ――喫茶Somaから火が消えたらしい

 ――スルー

 ――トス

 ――トス

 ――スルー




「法の先生、あのボトルトスって賭博にならないんですか?」

「条件によります」

「うわ、一番嫌な答え」

「一番正しい答えです」

「今の勇者のは?」

「私は参加していません」

「危ないから?」

「いいえ」

「じゃあ?」

「相談を受ける可能性があるので」

「……先生のコインがないこと自体が、情報になってません?」

「だから嫌なんですよ、この場所」

「でも、止めない」

「……はい」

「じゃあ、トス」

「最悪です」




 ――3Dデータバンクの変な貝のオブジェが流行ってるらしい

 ――スルー

 ――スルー

 ――スルー

 ――スルー




「まぁ、でもトスしておいて、期待外れな噂しかなかったらパスすればいいのよね」

「やめておけ、不義理のリボンがつく」

「でも海外出張とかだったら、普通にパスになるし、わざとでもばれないんじゃない?」

「そういう時は、誰かにコインを渡しておいて、代わりにペイしてもらうんだ」

「自分のコインで?」

「そう。一枚目はパスでゼロ円決済して、二枚目でペイ」

「二枚使うの?」

「ちゃんとリカバリーしたって、帳簿とボトルの首に証明したほうがいい」

「渡す相手がいない」

「目の前にいるだろ?」

「いやよ。あなたに私のコインを渡したら、何か別のことに使うでしょ」

「ばれたか。ま、その時は俺のコインでペイしといてもいい」

「え、それって」

「噂話になるな」




 ――ストーカー犯罪が厳罰化されるらしい

 ――トス

 ――トス

 ――トス

 ――ロスト




「あの姐さんのボトル、うちのシマからは誰かトスしてんのか?」

「……親父さん」

「酒の親父か?」

「ああ」

「冗談言うな、コインなんてぶら下がってねぇぞ」

「仕入れ担当したのが、親父さんだったらしい」

「マジかよ」

「表からは見えないが、ガッツリ帳簿に噛んでる」

「立てたのが姐さんで、仕入れがうちの親父で、締めるのがスタッフか」

「ボトルが立った瞬間、三人の帳簿につけられてる」

「一度つけられたら、消えない」

「取り消したら、それはそれで残る」

「……ちょっと裏を見てくる」

「ああ。俺ら傷もんは、それくらい慎重でもいい」




 ――レンタル業者とリスト買取り業者が摘発されたらしい

 ――トス

 ――スルー

 ――スルー

 ――ロスト




「少し前に不義理のパスを避けるために、彼女さんにコインを預けた人がいたでしょう?」

「ああ。出張って話だったやつ」

「あの人、現金出張だったみたいよ」

「まぁ。帳簿に付かなければバレないと思ったのかしらね」

「やっぱり『イケメン奥義の浮気潔白証明用ゼロ円決済』が正義よ」

「何それ?」

「例えばバーで仕事の話をした時に、相手と自分のお酒代を、自分とパートナーのコインで決済するの」

「え、勝手に?」

「勝手に使われたくなければ、コインなんて渡しちゃダメ」

「それはそう」

「その時に、パートナーのコインはゼロ円でつけて、あとは払うの」

「あ、そうすれば自分と相手の二つの帳簿に記帳される」

「もちろん完全に割り勘してもいい」

「店名と数字が同じなら、後ろめたいことはありません、と証明になる」

「少しタイムラグがあるけど、通知を受け取ることもできるしね」

「いいわね『イケメン奥義の浮気証明潔白用ゼロ円決算』」

「ん?それ大丈夫なやつ?」




 ――イケメン奥義の浮気潔白証明用ゼロ円決済、噛まずに言えた人

 ――ロスト

 ――スルー

 ――トス

 ――ロスト




「勇者のボトル、そろそろ開けないの?」

「まだです」

「もう十分集まってるでしょう?」

「コインは」

「じゃあ何が足りないの?」

「理由です」

「開けるための?」

「はい、集まったから開ける、では賭場になりますので」

「面倒ね」

「ええ。ですから酒場なんです」




 ――週刊誌にゴシップ記事が掲載されたらしい

 ――トス

 ――トス

 ――トス

 ――スルー




「それにしても姐さん、なんであんなにボトルトスに本気なんだ?」

「高い酒が飲めるからだろ」

「それはわかるが、金持ちなら、普通に買えばいい」

「一人で飲みたくないんじゃないか?」

「確かに一人だと噂話できない、か」

「悪趣味だな」


「あら?お二人は知らないの?」

「なんだ?」

「雀さん、お酒飲めないのよ」

「はぁ?あんなに酒、酒、言ってるのにか?」

「お酒は好きなのよ。でも一杯もいらない、というか体が受け付けない」

「そういや一人で飲んでる時は、ノンアルだな」

「しかも舌が肥えてるから、ただ飲めればいいと言うわけじゃない」

「栓を開けてすぐの、一番最初の一口がいい」

「そういうこと。お猪口のロックでいいそうよ」

「姐さんが、死なずに安全に酒を飲む方法がボトルトス」

「安全かは、わからない」

「噂話か」

「ええ。お酒を嗜む人からすると、一口じゃ足りないでしょ」

「だから肝臓のスペア確保のために、わざわざ噂話をラベルにしてるのか」

「そういうことにしておきましょう」

「……トス」

「あら、躊躇してたのに」

「まぁ、確認したいこともあるしな」

「何?」

「勇者の安否」




 ――カジノ誘致が白紙に戻ったらしい

 ――トス

 ――トス

 ――トス

 ――トス




「勇者のボトル、コインが集まってきましたわね」

「そのようですわね」

「トスしませんの?」

「ええ、私は眺めてるだけで十分ですの」

「どうして?」

「もう歳ですので」

「ですので?」

「ロストが近い」

「あらあら、弱気ですこと」

「不義理を残すのはエレガンスではありませんので」

「確かに、三途の川にもコインは必要ですしね」

「ふふふ。あなたも良く見ておいた方がよろしい」

「ええ、あの世で、亡くなった理由を、聞かないといけませんものね」

「もちろん。それは年寄りだけの特権ですわ」

「勇者のお祖父様にビンタするのもお忘れなく」

「あら、いけない」




 ――『勇者』のボトルにコイントスされたお客様。開栓に入ります。至急、バーラウンジまでお越しください。開栓に立ち会われない場合は、パスとして処理いたします。なお、コインはゼロ円で決済され、コインは返却されません。あらかじめご了承ください――

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