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八箱目 子取り箱、あるいは孵化した呪い

「なあ、そっちの箱には、対処方法とかないのか?」

「ええっと、何だったかな」


 もともとがネットの掲示板の書き込みだったらしいから、伝承とかではないのよね。

 と、彼女は脳内で話の続きを検索する。


「たしか、他の家に押し付けて、やり過ごそうとする話だったような」

「押し付ける?」

「ええ。家から家へとね。細かいところは覚えてないけど」


 ネット怪談だもの。

 どこまで創作なのかなんて、わからないわよ?


 そう言って肩をすくめる。


 彼は神妙な顔で頷いた。


「あの名簿にも、複数の家の情報が載っていた」


 コミュニティーの中で名簿を回す。

 情報を共有し、保管場所も外敵から特定されにくくする。


「だから『子守り』なのね」

「ああ。他にも子供が蔵に閉じ込められた時の、SOSとしても使われたらしい」


 だから唄箱の蓋には鍵が付いていない。

 閉じ込めるためではなく、助けを呼ぶための箱だったからだ。


 それは資料が残っているのだと、彼は痛かったらしいこめかみをもんだ。


 だが今はもう通用しない。


 ダークウェブで取引されている『選ばれた血』のリスト。

 そして、ここ数年で多発している、誘拐事件やカルト宗教の幹部候補の名前。


 その名前が一致している。

 実家の研究所で協力した子供の名簿とも。


「ならこちらは『名付け』をまわす」

「……コトリバコは呪いよ?」

「そうだ。だが怪談の多くは教訓を含んでいる」


 子供が井戸に近づかないように。

 山へ一人で入らないように。

 そして箱を開けないように。


「『子守りの唄箱』は美しすぎる」


 ロマンス詐欺は特殊詐欺へ。

 デート商法は借金強制契約へ。

 闇バイトは強盗殺人実行犯募集へ。


 犯罪への注意喚起は実態を想像させる名前へ。


 では美しい名前への警戒心はどう育てる?

 醜い名前に変えてしまっては、口にすら出されない。

 それでは意味がない。


 ならば恐ろしい名前なら?

 恐怖は想像力を掻き立てる。

 人は、その正体を暴きたくなる。

 そして名前ならいくら考察してもらって構わない。

 それが箱から遠ざかる理由になれば、それでいい。


 彼女はため息をついて、気をつけてよ、と言った。


「呪は返ってくる時に、倍返しになるらしいわ」

「知ってる」


 その返事は、妙に早かった。


「俺がそうだからな」


 言ってから、古いゲームのカートリッジを取り出す。


 カートリッジのラベルには、花弁を翼のように広げたモンスターが描かれていた。


 依頼主である風見鳥の男に、餞別として渡されたのだという。


「俺は、お前とも、お前の兄貴とも遊べた」


 だからお前も兄貴と遊べ。

 と無理矢理、握らされた。


「バグでコピーされた卵だ。親のデータまでは確認できなかった」


 何が生まれるんだろうな。

 と彼は自嘲的に笑った。

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