喫茶Somaの不文律
喫茶Somaの不文律
一、社交界の常識を持ち込むな。
ここでは名乗りも席次も役割も、卵サンドより優先されない。
二、嫌味を比喩で包むな。
比喩を使えば品があると思うな。
嫌味は嫌味だ。
言うなら正面から言え。
正面から言えないなら黙ってろ。
三、静かにしている客は放っておけ。
本を読んでいる客、コーヒーを見ている客、何かを待っている客。
そういう者に話しかけるのは、社交ではなく邪魔である。
四、おしゃべりは構わない。
笑ってもいい。
噂をしてもいい。
昼からビールを飲んでもいい。
ただし、隣の皿の味を悪くする話し方はするな。
五、喧嘩は普通に起きる。
だから余計な火種を足すな。
喫茶店の客は社交界の人間だけではない。
常連もいる。
一見さんもいる。
子どももいる。
社交界のつもりで刺した言葉が、普通に殴り合いの理由になることを忘れるな。
六、子どもに文句を言うな。
子どもは絵本を読む。
椅子を揺らす。
ジュースをこぼす。
それが嫌なら、子どもが来ない店へ行け。
七、事故物件が嫌なら来るな。
怪異がいる。
黒板が戻る。
トイレに妙な貼り紙がある。
それでもコーヒーは出る。
嫌なら来るな。
八、厨房を軽んじるな。
料理人への嫌味は、店そのものへの侮辱である。
その場合、熊が出てくる。
九、路地裏は近い。
社交界では名前を失う。
喫茶Somaでは、まず席を失う。
十、作業着を笑うな。
それは誰かの仕事着だ。
油の匂いも、土埃も、汗も、ここでは追い出す理由にならない。
店が困る汚れなら店が言う。
客が品評するな。
ただし、血の匂いだけは、こっそり報告しろ。




