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一皿目 発見、あるいは試験運用

「で、どうだったんだ?」


 アルコールが深めに入った場で、年上の男が軽い顔で聞いた。


「なんだ?」

「ご婦人にお嬢さんを通した時の話だよ」

「修羅場だったって聞いたぞ」


 修羅場と聞いて、男性陣がさらに集まってくる。

 彼はかなり嫌そうな顔をした。

 でも完全には黙れない。


「……まあ、普通ではなかった」

「普通じゃないのは、なんかわかる」

「内容だよ」

「何を話したんだ」


 彼は少し詰まった。


 そして初めて気づいた。

 これ、本当にどう説明すればいいんだ。


「……料理の話と、馬の話と、血の話になった」


 男たちが一瞬止まった。


「は?」

「順番がおかしい」

「待て、どこから血が出てきた」

「食べる、食べないの話にもなった」


 皆、少し真剣な顔になった。


「ちょっと待て。それ、普通の顔合わせじゃないな」

「お前、何を通過したんだ?」


 彼は疲れた顔で答えた。


「……俺もよくわかってない」

「わかってないのに通ったのか」

「最後に答えろって感じになったから、答えた」

「何て」

「……相手はお嬢さんで、ご婦人に招待状は送ると言った」


 男たちが少し黙った。

 それからいつになく真面目に、


「……それで通したなら、お前えらいよ」


 彼は答えなかった。

 本当にどうしてそうなったのか、自分でも理解できていなかった。




 発端は社交界にお嬢さんを連れてくる前。

 自分が彼女と暮らしていることが、ご婦人にバレたことから始まった。


 その日、彼は一人で街を歩いていた。

 何の用事だったのかは覚えてないが、とにかく彼女発案の減光運用の期間中だった。

 減光運用――すなわちモサ男計画。


 あなたの顔は他人の癖《へき》を刺激する。

 だから少し手を加える必要がある。

 とりあえず目元。

 太いフレームの大きめ伊達メガネ。

 横顔を見た時に、フレームで目が隠れるくらい。

 前髪はもう少し伸ばす。

 髪型は癖っ毛だから、ボサボサとフワフワの中間を目指す。

 まずはこれで試験運用ね。

 きっと妙な視線やヒソヒソ話、危ない好意を避けられるわ。


 少し納得がいかなかったが、試験運用は大事だ。

 と、それだけが目的ではなかったが、とにかく街を歩いていた。


 前方から来た黒塗りの車が横付けに停まる。

 後部座席の窓が下りる。

 顔は見えないが、笑みの形と胸元のバロックパールは知っている。


「あら、誰かと思ったわ。ふふふ、こんなセリフをあなたに言う日が来るなんてね」


 ご婦人は続けた。


 いいじゃない。

 前よりずっと自然だわ。

 やっぱり男は、女より目立たない方がいいのよ。

 必要な時だけ、ちゃんと目立てばいいんだから。

 以前はね、あなた『見つかる人』だったの。

 今は少し『紛れられる人』になったわね。

 その方が生きやすいでしょう?

 誰かいい人ができたのね。

 今度、連れていらっしゃい。


 もちろん返事など待ってはくれず、車は走り去った。




「お前の運用方法が正しかったらしい」


 夜、彼は素直に彼女に言った。

 そしてご婦人のことを話した。


「よくわかってる人ね」


 と彼女は悪戯っ子の顔で言った。


「その人って、あなたのお爺さんの元カノで、しかもボコボコにした人でしょ?手土産は何がいい?それとも手料理の方がいいかな?」

「……会うのか?」

「用意があるから」


 ご婦人からの返事はこうだった。


「あら、なら今度、競馬場にいらっしゃいな。あなたの彼女、馬を見る目がありそうだもの。あなたは付き添いでいいわ」


 どうして料理から馬の話になるんだ?

 どうして俺は付き添い扱いなんだ?


「行く。面白そう。馬は実際に見たいし」


 彼女がそういうなら、まぁいい。

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