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馴れ初め 二人の出会い、あるいは正気の証言

 船では、言葉も食事も、出せば戻らない。

 だから彼女は、出す前に見る。

 どこから来たものか。

 誰の口に入るものか。

 火は通っているか。

 毒はないか。

 混ぜてはいけないものが混入していないか。

 それは料理の話だった。

 そして、言葉の話でもあった。


 汚染された噂を、別の話題に混ぜるな。

 腐った名付けを、祝福の皿に乗せるな。

 毒のある言葉を、可愛い冗談として配るな。

 一度触ったなら、手を洗え。

 どの包丁で切ったか覚えておけ。


 でないと

 帰れなくなる。


 船には、舞踏室があった。

 銀の皿があり、白い手袋があり、星を見るための甲板があった。

 そして厨房もあった。

 熱と、塩と、包丁。

 そこは、出したら戻ってこない食材を数える場所だった。


 彼女は船で、料理人だった。

 ただし、厨房にだけいる料理人ではなかった。

 魚を捌き、スープを見て、乗務員の皿を満たし、夜には上の階で、客に料理の説明をした。

 だから彼女は知っていた。

 皿の上に乗るものと、

 皿の下で動くものの両方を。




 救助した難破船から、噂、病、秘密、危険、名状し難い何かが客船に入り込んだ。

 それがまず厨房に届く。

 なぜなら、生き延びた人間は食べるから。


 これはどこまで触った?

 その包丁は洗った?

 その布巾はもう使うな。

 生の魚を置いた場所にパンを置くな。

 内臓を開けた手で他の食材に触るな。

 火を通すものと、そのまま出すものを分けろ。


 厨房に入った時、彼女は泣いていなかった。

 火は落ちていた。

 包丁は布で巻かれていた。

 床に落ちた油には、砂糖袋が裂かれて撒かれていた。

 逃げ道になる扉だけが、少し開けてあった。


「動けるな」


 彼はそう言った。

 彼女は答えた。


「走れます」




 彼が最初から乗っていたのか。

 陸から異変を見て乗り込んだのか。

 それを彼女は、最後まで聞かなかった。

 ただ、厨房に入ってきた時、彼は迷っていなかった。


 彼女は、綺麗な皿の話だけをしなかった。

 汚れたまな板の話もした。

 だから、彼は信用した。


 彼は、家の中で生まれて、家の外へ出た。

 彼女は、客のいる場所へ入りながら、客にはならなかった。

 だから二人は、同じ食卓に立てた。


 船の外に出た時、彼が夜空を見上げて言った。


「月が出てるな」


 彼女は少し考えて、海を見た。


「潮が上がりますね」


 彼は陸の方角を確認して、手袋を直した。


「じゃあ、帰るか」

「はい」


 と答えて彼女はボートを指差した。

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