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協力者、あるいは情報屋

 自分は何度も言った。

 見るだけにしろ。

 触るな。

 人を動かすな。

 危険なら帰れ。


 最初は、あの男のことを情報屋だと思っていた。

 ただし、やけに書類の整った情報屋だった。


 日時。

 場所。

 関係者。

 推測と事実の切り分け。

 添付資料。

 矛盾点。

 次に確認すべき相手。


 それらが揃っていた。

 だから読めた。

 だから困った。


 あの男はこちらの注意を、だいたい守った。

 ただし、出口が塞がれていた時と、人が倒れていた時と、証拠が消えそうな時を除いて。

 つまり、あまり守っていなかった。


「お前、何でそこにいた?」

「見に行った」

「見るだけじゃなかっただろ」

「出口が塞がってた」

「それで?」

「開けた」

「開けただけか?」

「そうだ」

「じゃあ、あの手に持ってた花はなんだったんだ?」

「綺麗だったから」

「それだけか?」

「枯れる」

「よくわからない」

「花は枯れるものだろう?」

「それはそうだ」

「最後まで見れる」


 犯罪者が戦利品を持ち帰ることはままある。

 だいたいは、コレクション癖。

 後から思い出すために持ち出す。

 またはそれそのものが目的だったり。

 それは理解ができる。

 だが、枯れて捨てる物を、その最後まで見れる、という理由で持ち出すのは聞いたことがない。


 あの男の目的は、少なくとも収集ではなかった。


 ただ、

 止める。

 逃がさない。

 無力化する。

 現場を閉じる。

 証言できる状態で渡す。

 これ以上広げない。


 その範囲を、大きくは外れていなかった。

 だからギリギリ見逃せた。




「荒らされた形跡は?」

「ありません」

「物品の紛失は?」

「今のところ確認中です」


 部屋を見回す。

 机、棚、窓、床。

 どれも大きく動いていない。

 ただ、活け花だけが少し気になった。

 花は整っている。

 けれど、妙に間が抜けていた。

 一本分、呼吸が違う。


「……生花が乱れているな」

「花ですか?」

「一輪、抜けてる」


 ため息が自然に漏れた。


「またあいつか」




 変なやつだったが、変な事件のせいで認識を改めることになった。


 客船の事件だった。

 陸からそう遠くはなく、港からその船体を確認することができた。

 甲板から手を振る人影さえ見えた。

 けれど一向に寄港しない。

 連絡すら取れない。

 座礁してはいないことだけはわかっていた。

 なぜなら船は踵を返したからだ。


 警察と救助関係者が突入した。

 しかし彼らもまた、何らかの混乱に巻き込まれた。


 陸に降ろすことのできた乗客と乗務員は、言葉と潮を吐き出した

 降ろす側だった警察と救助隊のいくらかは、潮に呑まれ、そして飲み込んだ。


 指揮系統は一時的に、しかし大きく崩れた。

 保護対象、容疑者、証言者が混ざりあった。


 一番混ぜてはいけない物が、混ざり合ってしまっていた。


 あの男はそんな中から、料理人を持ち出した。

 それだけでなく逃げた。


「現場の証言は、ほとんど使えない」

「だろうな」

「君たちの話も、そのままでは使えない」

「知ってる」

「だが、筋は通っている」

「なら聞け」

「聞いている。だから逃げるな」

「逃げてない。待ってた」

「お前の言う待機は、世間では逃走に近い」


 料理人は本当なら現場に残って保護されるべき。

 でも、現場がパニックで、正気な証言が潰れる可能性があった。

 料理人の証言もそのままでは通らない。

 あの男自身も説明できないと判断した。


 だから外に出て、証言を整理していたらしい。


 男は見たものを構造で説明できた。

 どこが破断点だったか、どの導線が危なかったかを話せる。


 料理人は厨房側から、何が最初に届いたかを話せた。

 食事、衛生、乗務員、客、噂の混入経路を見ている。


 この二つを合わせると、筋が通る。

 何より二人は正気だった。


「腹立つが、今回は助かった」


 と言うしかなかった。


「お前は情報屋のままでいろ」

「そのつもりだ」

「現場に入るな」

「入ってない」

「なら現場から出てきた報告書を持ってくるな」

「入った方が早かった」

「早さの問題ではない」


 今も関係は続いている。

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