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エレガンス、あるいは物理
花は胸ポケットに挿してあった。
社交界ではそういうものだった。
飾りとして機能していた。
それだけの理由だった。
場が少し歪んだのは、夜も深い頃だった。
酔った男が声を上げた。
誰かの名前を呼んでいた。
名前は聞こえたが、意味は拾わなかった。
盤面を読んだ。
女性が二人、固まっていた。
ご婦人の知り合いだった。
古参の方が、出口を探していた。
三秒あれば足りる。
彼は立ち上がった。
男の隣に立った。
何も言わなかった。
ただ立った。
男が振り返った。
その一秒で終わった。
邪魔にならない場所に移動させた。
崩れた椅子を直した。
古参の方が何か言いかけた。
「何でもありません」
それだけ言った。
ご婦人に報告すると
「花は?」
とだけ聞かれた。
「折れていない」
「そう。品があるのはいいことよ」
それ以上、何も言われなかった。
ただ少しだけ、グラスを傾けた。
それだけだった。
「花は飾りのつもりだった」
品があったのか、花が折れなかっただけなのか、彼でもわからなかった。
でも花は折れていなかった。
コーヒーは冷めていなかった。
それだけは確かだった。




