その11
「あ、アサヒさん、いいところに」
朝、身支度を終えて今日もコッパとメニューの開発をしようと降りてきた時、声をかけられた。
「サンピさん、どうかしましたか?」
いつも通りメイド服をきれいに着こなしているサンピ。もともとゾンビだと言われても信じられない見た目だったが、王を倒してからは更に肌がツヤツヤしてゾンビらしくなくなっていた。
「ちょっとアサヒさんに相談したいことがあって」
「この宿の名前?」
「はい。ぜひ、アサヒさんにつけてもらいたくて」
当たり前だが、アサヒは宿の名前なんてつけたことがない。自作のタイトルだって編集の久我山に考えてもらったくらいだ。
それでも頼まれた以上は応えたい。
「そうだなぁ……例えば、『ホテル・ロイヤルなんとか』とか、『ホテル・ニューなんとか』みたいな感じ?」
元の世界にあった有名なホテルを思い浮かべながらいくつか候補を出してみた。
「そ、そんな大層な名前じゃなくていいです! もっとこの宿ならではの名前がいいかなって」
「この宿ならでは……そうだねぇ」
といって、やはり日本のホテルや旅館を思い出してみる。
「『サンピとコッパの宿』とか、『コッパ屋』とか?」
やはりこの世界の『コア』となったコッパの名前を前面に出すべきだろうかと提案してみた。
「いやいや、そんな畏れ多い……。コッパちゃんもそう言うと思いますよ」
だがそれもお気に召さないようだ。
まあそうだよなあ、とアサヒは思った。
コッパも世界の『コア』になったのに自分は宿屋の厨房に引っ込んでいるくらいに前に出ようとはしないから、宿に自分の名前をつけるなんて嫌がるというのはわかる。
「うーん、この世界ならではの……アンデッド……死者……復活……墓場……」
頭を捻って連想ゲームのようにいろいろな言葉が浮かんでは消える。
そんな時、おもむろに宿屋の扉が開かれた。
「コッパちゃん……?」
そこに現れたのはメイド服を着たスケルトン。
見慣れたコッパの姿だったが、どことなく尋常でない雰囲気を漂わせていた。




