その7
サンピの宿場町宣言からの日々はそれはそれは目まぐるしい日々であった。
やることは山ほどあった。宿だけでなく周辺の町の整備、宿泊サービスの構築、料理の開発、さらには土産物や周辺の観光地の開発など。
最も大変なのは宿に始まる町並みの修復だ。
長年にわたる放置状態ですっかり荒れ果ててしまった街を、観光客が来てくれるレベルにまで修復するにはとにかくマンパワーが重要だ。
これには街の兵士たちが大いに活躍した。彼らは人数も多く、力もあり、しかもアンデッドなので休みなく作業できる。
加えて、一度は敵対した近衛騎士や親衛隊も積極的に手助けしてくれた。
「どうしてあんなに必死になって王を守ろうとしたのだろう」とは、近衛騎士の一人の弁である。
宿泊サービスの構築を担当したのはサンピだった。
「こうすればしわを出さずにシーツを張ることができますよ。試しにやってみてください」
「そこまでやらなくてもいいんじゃない?」
「そうよねぇ。シーツを毎日取り替えるってのも、やり過ぎに見えるわ」
「ホントねぇ。王様じゃないんだから」
客室でのメイド研修中の一幕である。毎日客室の掃除をしてシーツを変えてしわ一つないベッドメイキングをする。
そこまでの徹底ぶりにメイドたちは不満だった。
もともと彼女たちはサンピとは異なり、普通の家庭で育った娘たちであり、毎日そこまでの家事はしてこなかったので当然の感覚である。
サンピは後に、この意識を変えることが一番の仕事だったと語る。
「王様ですよ」
朗らかな言い方とは裏腹に、その言葉には力と決意がこもっていた。
「お代をいただく以上、お客様は王様なんです。それくらいの気持ちで取り組みましょう」
「でも、そこまでしなくても……」
困惑する見習いたちに、サンピは優しく諭す。
「コッパちゃんが望み、わたしたちが目指すのはそういう道なんです」
自分で自分を律し、自分たちだけで世界を守らなければならない。誰かに頼っていてはまたいつセト王のような暴君が現れるとも限らない。
それは、この世界のアンデッドたちに共通した思いだった。
見習いメイドたちは真剣な表情で頷いた。
これはサンピの意識改革のうちの一つのエピソードに過ぎない。
しかし、メイドたちのこの細やかな心配りはやがてこの宿場町の大きな売りの一つになることだろう。




