その12
「やった……けど、何が起こったん……だ?」
その答えは王の背後から身体を突き破り、『コア』を砕いた者が持っていた。
王の身体が崩れたその背後に立っていたのは、漆黒の全身鎧――
「リア! え? でもリアは……」
アサヒは足元を見た。そこには、ひとしきりアサヒの靴をかじり終えて満足したのか、靴の紐にまとわりつく獣と、そこにまたがる手のひらサイズのリアがいた。
「え? リア? リアが二人……?」
「何バカなこと言ってるのよ。よく見なさい」
リアが全身鎧の方を指さした。
王のコアを握りつぶしたまま、右腕を突き出している全身鎧。
しかしその腕は肘より先がなくなっていて――
「『コア』をあんたが壊しても、あたしが壊してもこの世界は別の世界になってしまうわ。なら――」
先程ロケットパンチとして飛ばした右腕の代わりに右の肘から伸びているのは肉のない白骨の腕。
その右手が鉄仮面に伸びて面頬を開けた。鉄仮面の中に見えたのは、白い頭蓋骨。
「あっ!」
頭蓋骨の見分けなどつくほどよく見ていないアサヒだったが、彼女の頭蓋骨だけは別だ。この数日で最もよく見た頭蓋骨。
「なら、この世界の人が壊せばいいのよ」
ケタケタと歯を鳴らして笑う姿は間違いなくサンピとともに宿を営んでいるメイドのコッパだった。
「でもどうして? 王が起きている間、この世界のアンデッドたちは理性を失うんじゃ?」
アサヒの疑問に全身鎧の肩に乗ったリアが答えた。
「あの聖域よ」
聖域にはアンデッドが入らないとサンピは言っていた。それはつまり、王の支配が及ばない範囲である。
その事実に気がついたリアはこの聖域を解析し、鎧に同じ効果を施した。すなわち、歩く聖域である。作戦決行までに一週間を要したのはこのためだ。
目論見通り、鎧の中にいたコッパに王の支配は及ばず、理性を失うこともなく、この世界の人の手で王を倒すことができたのだ。
アサヒとリアを肩に乗せた全身鎧が玉座の間から出てくると、そこには多くの人が倒れていた。よく見ると、全員の膝から下がきれいに切り取られていた。
すでに全員が理性を取り戻し、戦いも終わっているようだ。王が倒れたことを知っているのだろう、騎士たちもおとなしい。
「やったのだな、アサヒ君。それでこそ私の配偶者」
その人々の中心でエクリプスはただ一人、五体満足でしゃがみ込んでいた。お互い拳と拳を突き合わせる二人。
「はい、リアとコッパさん、そしてこの子のおかげでなんとか」
そう言って足元を見た。二人を助けてくれた白骨獣は尻尾を振りながら元気にアサヒの足の周りを駆け回っている。
「ま、あんたもよくやったわよ、エクリプス」
「ふ。こう見えても私は世界一の剣豪になるさだめの女。これしきの――」
エクリプスが全身鎧の方を見たとき、その言葉は止まった。何故なら、全身鎧の面頬は開けられており、そこからは白骨と化した顔面がのぞいていたからだ。
「ひ……」
「ひ?」
その瞬間、エクリプスの姿が消えた。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ……! おばけぇぇぇぇぇぇぇ!」
気がつけば、王宮から出て荒野の中を地平線に向けて走っていくところだった。
「あれまあ」
全身鎧の肩に座っているリアが呆れたように肩をすくませた。




