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W線上のアリア  作者: 雪見桜
穏やかな死と変化ある生と
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86/105

その10

「く……そっ……」

「ケケケケケケケケ! 死ネ、死ネェェェェェェ!」

 アサヒは世界樹の剣を両手で持って支えるが、王はますますパワフルになってアサヒを圧倒してくる。ついには膝が床についてしまった。先程の異形と同じ状況だ。

 先程の異形のような巨体でもなければ宮廷騎士のように剣技に優れているわけでもない。しかしアサヒは今、現に追い詰められている。

「このまま……じゃ……」

 ぎりりと歯が鳴った。


 それでも意地があった。下は向きたくなかった。

 だから、あえて上を向いた。

 そこには、不死者の王がいた。

 肉のない白骨の顔に落ち込んだ眼窩の奥に怪しく輝く光。くすんだ黄金色の王冠。そして口から溢れ出す黒い瘴気。

 先程リアが吹き飛ばした黒い靄とは明らかに異なるモノ。


「…………!?」

 それはいつしかアサヒの体にまとわりついていた。まるで身体全体を縛り付ける鎖のように。

「もしやこれが……?」

 これはリアが吹き飛ばしてくれた靄と同じような呪いの瘴気なのでは? 先程から体に力が入らないのは、もしや――


「リア! もう一度風の魔法を! この瘴気を吹き飛ばしてくれ!」

 しかし、常ならば響くように返るリアの声が聞こえない。

 彼女のいる方を振り返ると――そこにはアサヒ以上に瘴気に絡め取られ、倒れる全身鎧の姿があった。


「リア――――っ!」

 アサヒが叫ぶが漆黒の全身鎧はぴくりとも動かない。

 そうしている間にも王の力はますます強まり――実際はアサヒの力が弱まっているだけなのだが――この力比べに決着がつこうとしていた。


「ここ……までなのか……」

 その時だった。視界の隅を白い何かが走ったのが見えた。骨の異形と戦っていたときに見えたものと同じものかもしれない。

「…………!」


 今度ははっきり見えた。それは四本脚で走る白骨の動物。まるで犬のように黒い筒のようなものを咥えて疾走している。

 そしてその背に乗っている小さな影は――


「リア!」

 プラチナブロンドの長い髪をなびかせながら骨の動物の背に乗って疾走するのは、いつもの全身鎧ではなく、その中の手のひらサイズの美少女だ。

 白骨獣の背中に広げている小さな紙片――魔導書の一部だろう――にリアが手のひらを当てて動かすと、その動きに従って書かれた文字が緑色に光り、やがて赤く変化する。


「これでも……くらえーっ!」

 言うと、周囲に出現した火球が一斉にアンデッドの王向けて放たれた。

 しかし、それらはあっけなく王の周囲に展開されたバリアに阻まれる。

「効カヌワ!」


 だがそれは王にダメージを与えることを意図したものではない。王が反撃にと靄を飛ばすと白骨獣はひらりと左右に飛んでそれを避ける。

 リアの目論見通り、王の意識が一瞬ではあるが自分たちの方を向いた。その隙にアサヒは抑え込まれつつある状態を脱して体勢を整える。


「でやあああああ!」

 瘴気がまとわりついて重い身体を必死で動かし世界樹の剣を振る。

 意識が散漫になっていて防御が疎かになっていた王の肩口にヒット。しかしあまり大きなダメージは与えられていない。それどころか反動で体の重心がずれてよろめいてしまった。


 だがそれが幸いした。王が反撃に突き出した杖がちょうど直前にアサヒの体があった場所をかすめていった。全く思ったように身体が動かない。

 呪いのせいなのか、戦いのときにはいつも感じていた『どう動けばいいかわかる感覚』がなく、彼の動きは素人そのものになってしまっている。


「それでも――!」

 それでも攻撃の手を緩めることはできない。王の注意を分散させないと今度はリアが窮地に追い込まれてしまうからだ。


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