その9
親衛隊はリアの方を一斉に見ると、その落ち込んだ眼窩に鈍い光をたぎらせ、虚ろな行進を始めた。
だがその行進は長くは続かなかった。横合いから飛んできた木の蔦が彼らの白骨の頭を一つ残らず吹き飛ばしたからだ。
「ナカナカヤルデハナイカ。殺シテ余ノ下僕トシテヤロウ!」
一瞬で親衛隊を無力化させられた王だったが、その様子に焦りは見られない。
「アサヒ、こいつに魔法は効かないわ。挟み撃ちにするわよ!」
「わかった!」
方針が決まれば早い。リアは魔導書を背負子に戻し、代わりに剣を抜いて走っていく。アサヒもそれにあわせるように反対側から距離を詰める。
「余ガタダ玉座ニイルダケノ支配者ト思ウテカ! 痴レ者!」
王が再び杖を振ると、玉座の周囲に黒い靄の塊が現れた。それらはリアが周囲に火球を作り出したときと同じように次々ターゲットに向けて射出される。
「そんなもの……っ!」
迫り来る靄の塊を世界樹の剣ではらう。しかし――
「だめっ、アサヒ!」
「え……?」
世界樹の剣が靄のひとつを捉えた。だが、全く手応えがない。それどころか、靄は世界樹の剣に張り付いて剣越しにアサヒの方まで上がってくるではないか。
「うわわっ……!」
あわてて剣から手を離した。放り出された剣には次々靄が集まってきて、まるで砂糖菓子に群がるアリのようだった。
否――それはアリのようにかわいらしいものではなかった。
よく見ると靄の表面には幾つかの人の顔が張り付いていた。不定形のそれらは出たり隠れたりしているが、いずれも苦悶の表情を浮かべている。
「やっかいね。おそらくあれに触ると呪われるわ。呪いの効果はわからないけど、いいことはないでしょうね」
アサヒの背中越しにリアの声が聞こえてきた。気がつけば周囲に呪いの靄が集まっており、追い詰められた格好だ。
「どうするの?」
襲いかかってくる靄を捌きつつアサヒが聞いた。呪われた世界樹の剣は即座に投げ捨て消して新しい剣を出すのもなかなか骨が折れる。
「こいつらはあたしがなんとかするわ。あんたは王をお願い」
「わかった」
アサヒは頷くと、そのまままっすぐ王の方へと走り出した。
靄は目に入っていない。リアがなんとかするというならそれを信じる以外にない。
「馬鹿メ! 呪ワレヨ!」
王が杖を振る。
突撃するアサヒに靄が殺到する。
しかしアサヒは構わず靄の中に突っ込む。
その時、アサヒの背を押すように突風が吹いた。
それはアサヒの背を押しただけではない。周囲の靄をその力によって吹き飛ばしていく。
靄が吹き飛ばされた今、アサヒと王の間に遮るものはなにもない。
「でやああああああああ!」
飛び上がったアサヒは王目がけ振り上げた世界樹の剣を渾身の力で振り下ろす。
硬い音。
アサヒの世界樹の剣をセト王の杖が受け止めた。
そのまま鍔迫り合いになる。
純粋な力比べだ。世界樹の剣と王の杖がお互いを押し合い、ギリギリという音がアサヒの耳まで届いてくる。
こちらが上手で有利な態勢での鍔迫り合いであるにも関わらず、押し込むことができない。むしろ、押し返される程に相手は力強かった。
ローブを纏って王冠をかぶっているだけの骨のどこにこれほどまでのパワーがあるのだろうか?
「ケケケケケケケ! 全テノ生者ハ死シテ予ノ軍門ニ降レ!」
そのまま押し込まれるアサヒ。その勢いは逆転し、いつしか王がアサヒを抑え込む形になっていた。




