その8
異形の拳に更に力が加わる。それまで拮抗していたアサヒとの力関係に変化が生じた。異形側に。アサヒの体勢が少しずつ低くなっていく。
足元のタイルが砕ける。身体の中からミシミシという嫌な音が聞こえる。
二の腕より先の世界樹の腕は平気だが、元のアサヒの身体が限界を迎えている。
ついに片膝をついてしまった。
このままではリアもろともこの異形に潰されてしまう。
「り……リア……目を覚まして……」
リアだけは何とか助けなければ。
ついに目もかすんできた。そのせいか、それはアサヒが産み出した都合の良い幻なのかと一瞬思ったほどだ。
何か白い一条の線のようなもの、あるいはコンビニのレジ袋のようなものが流れたかと思うと、異形の足に取り付いた。
だが、それは気のせいでは無かった。次の瞬間。ポキッという大きな音と同時に白いものが取り付いた側の足の方に異形の巨体が倒れ始めたのだ。
その隙を見逃すアサヒではなかった。
均衡が崩れた力比べを上手く利用して攻撃をそらし、巨体が倒れる前に自分はリアをかついで素早くその場から移動する。
異形が倒れるのとアサヒがその影から離れるのはほとんど同時だった。骨だけで構成されているとは思えないほどの振動が発生し、半ば以上崩壊している玉座の間をさらに崩壊させた。
「中心核よ! それを狙って!」
目を覚ましたリアが頭を振りながら言った。リアの言う通り、異形が倒れたことによって、それまで背中側にあって見えなかった鈍く赤く光るガラスのようなクリスタルのようなパーツが見えた。
三本の腕と足――よく見ると、先ほど白い何かが取り付いた側の足はそれを構成している骨の何本かが白い何者かによって砕かれて機能しなくなっていた――でよろよろと立ち上がろうとする異形の背に素早く乗ったアサヒは、世界樹の剣を大きく掲げた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
アサヒが思い切り剣を振り下ろす。どう振り下ろせばいいかはわかっていた。
異形が大きく身体を揺らして抵抗するが、アサヒの身体はびくともしなかった。リアがアサヒの靴についた土くれから土の手を生やして固定してくれたからだ。
世界樹の剣が赤い中心核に突き刺さった。手のひらほどの大きさのそれ全体に裂け目が走り、次の瞬間には砕け散った。
それと同時に無数の白骨で構成されていた異形の巨体は一瞬でその結合を解き、ただの骨の山となり果てた。
「次はあんたよ、不死者の王!」
リアが落ちていた魔導書を手に取り指を走らせる。リアの周囲に火球が発生する。
「ケケケケケケケ! 勝ッタ気デイルナ、生者!」
王の声をかき消すように無数の火球が王に殺到する。まるで小さな太陽が現れたと錯覚するばかりの熱と光、そして轟音だったが――
「なにっ!」
王は無傷だった。薄くオレンジに輝くバリアを展開してそれらを防いだようだ。
「愚カナリ!」
さらに王が杖を振ると、玉座の周囲から白骨化した親衛隊が新たに現れた。
「生者ハ死者ニナルガソノ逆ハナイ。ナラバ死者ヲ支配スル余コソガ、コノ世界ノ支配者タルニ相応シイ!」




