その7
「どんなもんよ!」
リアがドヤァと胸を張り、そしてクリアになった視界の先をびしいっと指さす。
王は玉座の肘掛けに掴まっていたのか、親衛隊達とは異なりその原形は留めていたが、もはや頼るべき味方はいない。
「次はあんたの番よ、覚悟なさい、不死者の王!」
だが、不死者の王はその白骨の顔からでもわかる数少ない感情――笑いを返した。
「ケケケケケケケケ。誰ノ番ダト? 勝ッタ気デイルノカ、痴レ者メ!」
最初に異変を感じ取ったのはアサヒだった。
微かに、だが確実に何かが聞こえた。
小さくて、軽い、何かが動く音が――部屋の隅から。
「!!」
音のする方を見た。そこには、先ほどの揺れで崩れたスケルトンの骨が集まっていた。
やがて部屋の隅だけではなく、その手前からも、右からも、左からも、アサヒの足元からも音がし始めた。
今や部屋のあちこちからばらばらになった骨がカタカタと音を立てて震えている。
「リア、気をつけて! まだ終わってない!」
アサヒが注意を促すが、しかし遅かった。
部屋中の骨という骨が浮き上がり、部屋の隅の一点――もっとも骨が多く集まっていた場所へと向かっていく。
それらは元の形に戻っていくのではなく、もっと別の――
「……!」
するすると動画の巻き戻しのような動きで骨が集まったあとにできあがったもの、それは一言でいうならば異形そのもの。
全身は白骨で構成されていながらもただのひとつたりともそれらは正しい場所には使用されていない。適当に組み合わせた結果、異常な形状ができあがってしまった見上げるほど巨大な怪物。
頭部らしき部位は存在しない。いや――かつて頭部を構成していたパーツは存在するものの、それらはひとつとして正しい使い方をされていなかった。
胴体らしき塊に四肢らしき末端があるものの、その他にも多数の突起が見るものに生理的な嫌悪感を覚えさせる。
「ヴ……オ、お、オ、オォぉォぉォぉォぉぉぉォぉォォお!」
それは声などではなかった。空気がただその異形に流れた結果振動しているだけに過ぎないもの。ただそれだけなのに怖気が走る。
そのせいで反応が一瞬遅れた。
異形が無造作に手を振った。それはあまりに自然な動きで、まるで机の上の埃をはらうほどの気楽さで行われたが、そこに込められた力は気楽なものではなかった。
「きゃっ!」
リアの短い悲鳴と同時にその姿が消えた。直後に鈍い衝突音。
見ると、リアが倒れていた。
捨てられた人形のように倒れている全身鎧はぴくりとも動かない。
異形が立ち上がる。
頭部がないその巨体はそのまま倒れた全身鎧を見下ろしている。
やがてゆっくりと両腕をあげたかと思うと、頭上――頭はないが――で両手を組む。
「……っ! まずい!」
我に返ったアサヒが全力で走る。〈東京〉に住んでいた頃とは比較にならない速力で異形が振り下ろす拳とリアの間に割り込んでいく。
鈍い音。異形の拳を世界樹の剣で受け止めたアサヒの身体に衝撃が走る。
「ぐっ……!」
歯を食いしばって耐える。足を広く広げ、両手で世界樹の剣を支えて押しつけられる拳の圧力に対抗する。
足元で倒れているリアはまだ動かない。中のリアが気を失っているのか、鎧に不具合があるのか。
このままではジリ貧だということは百も承知だ。だが、異形の攻撃に耐えるだけで精一杯で打開策が見つからない。
異形の向こうで嗤う不死者の王の声が癇に障る。




