その6
廃墟と化した王宮の一番奥に、往時にはおそらく大きく立派な扉があったであろう大きな入口がぽっかり穴を空けていた。
そこに足を踏み入れるリアとアサヒ。
その部屋は屋根も壁もかなり崩れていてどれほどの広さだったかもはや知るすべはないが、足元に残されたタイルの精緻な模様やわずかに残る柱に描かれたくすんだ飾り付けから、そこは格式の高い部屋であることが察せられた。
その奥にはやはり風化した石の玉座と、そこに腰掛ける半ば朽ちたローブを身にまとい、くすんだ王冠を被った白骨死体。
否――それはただの死体ではなかった。
白骨の目が鈍く光る。背もたれにもたれかかった身体を気だるく起こす。
アサヒが世界樹の剣を構え、リアが魔導書のページを開いた。
「余ノ眠リヲ妨ゲルノハ……貴様ラカ……」
腹の底に響くような声。それは、〈スラーヴァ〉の王とは明確に異なり、人を支配する者の声――王の声だった。
アサヒの剣を握る手に力がこもる。リアは不死者の王をまっすぐに見つめた。
「あんたがセト王ね。悪いけど、その首もらうわ。もうみんなあんたには愛想つかせているのよ」
リアの宣言に王は顎をカタカタ鳴らしながら笑った。
「ケケケケケケケケ、笑止! 王位ヲ望ムカ、生者ヨ。マッタク、生者ノ欲深サハ度シ難イ!」
王がゆるりと立ち上がり、そこに立てかけてあった杖を手に持って大きく掲げると、王の身体から激しい衝撃波が巻き起こる。
「…………!」
「出デヨ、我ガ忠実ナル親衛隊!」
部屋に敷き詰められているタイルが次々盛り上がった。
そこから現れる白い手。
骨だけの手は地面を掴み、地中から頭を、胴体を、足を引きずりだしていく。
広大な玉座の間はあっという間にスケルトンの親衛隊で埋め尽くされてしまった。
「まだ……こんなにたくさん……!」
「泣き言はあと! くるわよ!」
王が掲げた杖を振り下ろすと親衛隊は訓練された動きで一斉に襲いかかってきた。その練度は先の宮廷騎士団以上だ。
「ああもう! わかってるよ!」
アサヒとリアはお互い背中合わせになって押し寄せる親衛隊達を捌く。
左から襲いかかるスケルトンの剣を世界樹の腕で無造作につかみ取り、右から攻撃してくる近衛兵は世界樹の剣で流す。同時に前方から突撃してくる骨にはキックで間合いを遠ざける。
リアが魔導書に指を這わせると、壊れたタイルの隙間から無数の土くれの腕が出現して押し寄せるスケルトン達の足を掴んで足止めをしている。
動きを止めたスケルトンの頭部に蔦が鞭のように鋭く払われると、その頭部が勢いよく飛んで行き、残されたボディは操り人形の糸が切れたように力なく崩れていく。
「頭だ! 頭と身体を離せば無力化できる!」
するすると伸ばした蔦を肘に戻しながらアサヒは叫んだ。
「ナイスよ、アサヒ! そうと決まれば……」
リアは別の魔導書を取り出すと、素早く目的のページを開き、指を這わせる。
文字列が赤く輝き、記述された文字が意味を成し、現実世界に影響を及ぼす。
アサヒの足元に先ほど親衛隊の足首を掴んだものと非常によく似た土の手が現れると、同じようにアサヒの足首を掴んだ。
「えっ……?」
一瞬呆気にとられ、アサヒの動きが止まる。
が、次の瞬間、玉座の間が上下に激しく鳴動した。
「わ、わわわわわわわわっ!」
比喩ではなく玉座の間の床が数秒間、波打つように揺れたあと、唐突におさまった。
「うえっ、げほ……げほっ。な、何だったんだ今の……」
激しく上下にシェイクされたが、土の手が足首を固定していたために振り回されずに済んだアサヒは周囲を見てリアの意図を理解した。
津波のように押し寄せていたスケルトンの親衛隊達は、一体残らず倒され、それどころか全身の骨という骨はばらばらになり散らばっていた。さながら、おもちゃ箱をひっくり返した子供部屋のような有様だった。




