その3
狭い通路の前後に三〇名ずつの敵騎士。完全に囲まれている。
「想定外だ、数が多い。どうする、リア君?」
リアを中心に前方をアサヒ、後方をエクリプスが守る陣形。しかしこの数の前では陣形など塵芥にも等しい。
「どうするって、やるしかないわよ。準備はいい、アサヒ、エクリプス!」
「ああっ、もう! やるしかないのか!」
「言っておくが、実体のないものは斬れんぞ!」
アサヒは世界樹の剣を構え、エクリプスは鞘から刀を抜き、そしてリアは魔導書に指を這わせる。
「やれ!」
騎士長が号令を出すと、アンデッドの騎士達が一斉に襲いかかってきた。
「先手必勝!」
リアが魔導書に指を這わせると、頭上に巨大な火の玉ができ、襲いかかる先頭のミイラ騎士に飛んで行った。激しい爆発音。
「!?」
爆風の中から盾を構えたミイラ騎士が飛び出してきた。盾こそ丸焦げになっていたが、騎士自身はほぼ無傷だ。
騎士は盾を投げ捨て素早くリアの懐に入り込むと、流れるような動きでリアに斬りかかる。
リアは慌てて腰の剣(〈マギア〉に戻ったときに新調したものだ)を抜こうとするが、とても間に合わない。
「くっ……!」
咄嗟に手を掲げて身体を守ろうとするが、ミイラ騎士の刃は全身鎧に届くことはなかった。
「リア!」
声の方を見ると、アサヒが世界樹の剣で別の騎士を相手にしながら肘から伸ばした蔦でミイラ騎士の剣と綱引きしていた。
「アサヒ!」
そう言うとリアは再び魔導書に指を走らせる。ミイラ騎士は至近距離からの火炎をくらい、吹き飛んでいった。
通路での戦いになったおかげで三〇人の騎士達と同時に戦う事はなかったものの、それでも同時に複数の騎士と相手をせざるを得ず、戦いに不慣れなアサヒでは相手の攻撃を捌くので精一杯だった。
リアは周囲を見渡しながらアサヒとエクリプスが対処しきれない騎士に火球を放つが、どの騎士も火球はしっかりと盾で防ぎ、間合いを詰めてくるので、次第にリアすらも魔法ではなく剣で対応せざるを得なくなっていった。
「リア君! 数が多すぎる! このままでは瓦解するぞ!」
背後でエクリプスが叫んだ。さすがの彼女は同時に襲ってくる騎士達をひとりで対処しているが、無尽蔵の体力を持つアンデッド相手ではいかにも分が悪い。
「くっ……」
撤退の二文字が脳裏をよぎったが、リアは決断できないでいた。
完全に見込み違いだった。まさかこれほどの戦力が王側についていたとは予想外だった。この世界の人々は皆、サンピやコッパのように王の打倒を望んでいるのだと思っていた。
王宮に近いほど王の支配は強まると聞いた。彼らは王に忠誠を誓っているのだろうか。それとも眠っていてもなお王の支配下にあるのだろうか。
ここで撤退すれば、王は警戒し、攻略はさらに困難になるだろう。次回もエクリプスが力を貸してくれる保証はない。
しかし、命には替えられない。
自分には使命がある。〈マギア〉の皆を救うという使命が。
奇妙な成り行きから旅を共にしているアサヒに無茶をさせるわけにもいかなかった。
あの食い逃げ女は――まあともかく。
「てった――」




