その6
アンデッド騒ぎはそれからしばらく続いた。
日が暮れて真夜中になっても落ち着きそうになかったので、その日の夜は部屋から出ることを諦め、手持ちの干し肉をかじって寝た。
どちらがベッドに入るか一悶着あったが、リアは全身鎧の中では快適に眠れるというのでアサヒが折れてベッドに入ることになった。
ごぉーん、ごぉーん。
大きな鐘のような音によって起こされた。
ベッドから枕元に手を伸ばすが、目覚まし時計は見当たらない。とそこで自分は〈東京〉の自宅にいるわけではないことを思いだした。
「うるさいなぁ……」
アサヒはベッドから抜け出し、日が昇ってすっかり明るくなっている窓の外を見た。
エクリプスによって破壊された窓の向こうは昨晩の騒動が嘘のように静まりかえっており、昨日と同じく廃墟と化した町並みが広がっているだけであった。
あの鐘のような音は昨日も聞いた。おそらく、あの鐘こそが王の寝起きを知らせるものなのだろう。
「リア、起きて。朝だよ」
アサヒが声をかけると、鎧を出て机の上で端布を布団に眠っていた手のひらサイズの魔術師は「あと五分」というベタなことを言いながら再び夢の世界へと入ろうとした。
「起きて、リア。アンデッドたちはもういなくなってるよ」
リアの小さな肩を指で押してゆさゆさと体を揺らすと、眠い目をこすりながらもようやくリアが体を起こした。大きくあくびをする。
「ふわぁ〜あ。アンデッドがいないならもういいじゃない。寝かせてよ。あたしは眠いのよ」
と言いつつ、机の上に座りながら船を漕いでいる。
こん、こん。
そうしていると、部屋の扉が控えめにノックされた。
「どうぞ」
アサヒが返事をするも、ノックの主は部屋に入ってくる気配がない。
「?」
仕方なくアサヒが扉を開くと、そこには案の定申し訳なさそうな表情のゾンビとスケルトン(スケルトンの方は表情はわからないが小さく縮こまっていてその感情が伝わってきた)がそこにいた。
サンピとコッパだ。
「昨夜は大変失礼しました」
サンピがそう言うと、コッパとともに深々と頭を下げた。
「自分ではどうにもならないんでしょ? あたし達に被害はないし、謝る必要はないわよ」
ようやく起き出したリアが髪を手ぐしですきながらあっさり水に流した。
「そんなことよりあれよ、あれ」
リアが後ろを見た。
そこにはエクリプスが破壊した窓がそのままになっていた。自分が壊したわけではないのだが、それでも申し訳ない気持ちになるアサヒであった。
「あら、大変!」
サンピはそれだけ言って、新しい部屋へ案内してくれた。それだけで済んだことに拍子抜けした。
「なんか……すごい世界に来ちゃったね」
新しい部屋に移動して落ち着いた頃、アサヒが口を開いた。
「そうかしら? ここではわりとありふれた話よ」
そうだった。リア本人も世界がまるごと呪われて、それを解くために旅をしているのだった。しかもそれを起こしたのが実の妹である。
その事実を思い出してアサヒは顔から火が出る思いだった。
「でも……」
気まずい(とアサヒが勝手に思い込んでいた)雰囲気を吹き飛ばしたのはリアだった。
「このままほっとくわけにはいかないわね」
「え?」
と言ったアサヒを全身鎧が睨んだ。
「『え?』ってどういうこと? もしかして、あたしが『この世界は放置して先を急ぐわよ』とでも言うかと思った?」
「い、いや……。リアってさ、ほら、わりとリアリストな所あるじゃん? だから、ね……?」
「ふうん。ものはいいようね。まあ、リアリストってのはそうかもしれないわ。魔術師なんてそうじゃないとやっていけないからね」
「そ、そうなんだ……」
地雷を踏んだかと思ったが、意外にもあまり怒っていないようで安心した。
「それで、この世界のことなんだけど」
「どうするの?」
リアはベッドの端に腰掛けた。ふかふかのベッドというわけではないが、全身鎧の重みによって少しだけベッドが傾いた。
「死霊魔術っていうのが気に入らないのよ。あれは魔術も死者も冒涜する邪法だわ」
魔術師としてあれは撲滅させなければいけないと拳を握って決意を固くするリア。
「王様を倒すの?」
というアサヒの問いに、リアは頭を振った。
「それだけじゃダメ。前の〈スラーヴァ〉の時と違って、今回は世界の『属性』を変える必要があるから」
「それじゃ、どうするの? 僕にできることはある?」
「もちろんよ。よーく聞きなさい」




