その5
「ここにはアンデッドたちは入ってこないって言うから、しばらくおとなしくしてれば問題なさそうだね」
「そうね。落ち着いてくれないと何もできないわ。読書でもしてようかしら」
などと話している窓際の二人の背後に、ぬっと大きな影が降りた。
「!?」
思わず振り返った。
そこには、文字通り見上げるほど大きな人影。
さっきまでそこのベッドで眠っていたエクリプスだった。
「な、何が起こっているんだ……?」
窓の外を見たエクリプスは顔を真っ青にしている。
ドンドンドンドン!
全員の心臓が跳ねた。
背後、部屋のドアが乱暴に叩かれたのだ。
ドンドンドンドン! ドンドンドンドン!
「誰かいるのか? もしかして逃げ遅れたのか?」
エクリプスが扉の方へと歩いて行く。
「エクリプスさん、ダメだ!」
アサヒが止めるまでもなく、扉は開かれる――
「う……あ……あ……あ……」
扉の向こうで待ち受けていた顔、顔、顔――
普通の顔ではない。ゾンビ、スケルトン、レイス、ミイラ、その他にもたくさん……。
いずれも感情のもたない虚ろな瞳で一斉に扉を開けたエクリプスの顔を見た。
それらは部屋の中に入ってくることはなかったのだが――
「きゃ」
エクリプスの表情が恐怖に歪む。
「きゃ?」
アサヒの頭上に『?』が浮かぶ。
「きゃあああああああああああああああああ!」
パニックになったエクリプスはまるで女の子のような叫び声を上げてアンデッドたちから少しでも遠ざかるため、背を向けてダッシュした。
驚くアサヒとリアの隣を駆け抜けてそのまま窓に突進。それを突き破って外へと出た。
二階の高さからなんなく着陸したまではよかったが、そこまでだった。
「ぎゃああああああああああああ!」
無数のアンデッドたちに取り込まれるが、武器を持たずに飛び出してしまったエクリプスにはどうすることもできず、ただ悲鳴を上げながらその脚力を生かし、アンデッドたちの輪を脱して逃げるだけだった。
「あーあ、行っちゃった」
破壊された窓からその顛末を見ていたリアが呆れたように呟いた。アサヒは開けっぱなしになっていた部屋の扉をそっと閉めた。アンデッドたちの気味の悪いまでの無表情が眼前から消えていく。
サンピの言う通り、扉が開いていてもアンデッドたちが部屋に入ることはなかったのことだけが朗報と言えた。




