その4
「わたしたちはその王によって永遠に支配されることになりました。心も、身体も。生者を憎み、死の世界に引きずり込む王の願いを叶える道具として」
「え? でも、そんなふうには見えないんだけど……」
サンピはもちろん、見た目はかなりグロテスクなコッパさえも普通に――それ以上に献身的にアサヒとリア、そしてエクリプスに接しており、理性的に思えた。
しかしサンピはその指摘に首を振った。
「それは今、王が眠っているからです。王が目覚めると、この世界の住人は皆、王の願いを叶えるため、生者を殺そうとします。そして殺された人はアンデッドとなり王のしもべとなるのです」
「その王が全ての元凶ね。で、王はいつ目覚めるわけ?」
「わかりません。王の寝起きは不規則で、いつお目覚めになってもおかしくないのです」
「そう……」
「あ、でも安心してください。この部屋は理性を失ったアンデッドが入れないよう結界がしてあるので、みなさんは安全ですから」
「あはは……ありがとう」
そう言われても安心できるアサヒではなかった。
「だったら逃げればいいんじゃないの?」
たしかにリアの言う通りだ。王の支配力はこの世界限定のものだ。多世界である〈トランカータニア〉において、W線を超えて別の世界に行けば王の軛から逃れられるのではないか。
サンピは首を振った。
「ダメなんです。わたしたちは王宮のあるこの町から外に出ることはできないんです」
それでも王宮から最も遠い町外れのこの邸宅で二人は暮らしているのだという。少しでも王の影響が少なくなると信じて。
「なるほど。状況はわかったわ。当面は――」
その時、部屋――いや、世界全体を重く、大きな、魂の底に響くような音が響き渡った。
ごぉーん、ごぉーん。
「……!!」
「な、なに……?」
突然のことに驚くリアと狼狽えるアサヒ。サンピは顔を真っ青にして、
「王がお目覚めになられます!」
「王って……この世界をアンデッド化させた?」
「はい! 王がお休みになるまでわたし達は理性を失い、生者を見境なく襲います! この部屋は聖域になっており、理性を失ったわたしたちが立ち入ることはできません。絶対に出ないでください!」
サンピは早口でまくし立てると、アサヒとリアを部屋に押し込んで自分は外に出ていった。
「アサヒ、見て!」
突然の出来事にアサヒが呆然としていると、リアが窓から外を眺めていた。
「…………!!」
そこには、どこから現れたのか周囲を埋め尽くすばかりのゾンビやスケルトン、レイスにミイラ――アンデッドたちが押し寄せていた。
「見境なく生者を襲うって言ってたね。ここに僕たちがいることを知ってるんだ」
「自分が死んだからって生きてるあたし達に八つ当たりするなって感じよ。これだから死霊術師は」
「とはいえ、ここにはアンデッドたちは入ってこないって言うから、しばらくおとなしくしてれば問題なさそうだね」
「そうね。落ち着いてくれないと何もできないわ。読書でもしてようかしら」




