その2
「わたし、サンピと申します。お連れ様がお待ちですよ」
驚くべきことに、サンピはこの世界に住んでいるのだという。
さらに驚くべきことに、ここはサンピの家の一室だったのだ。
「言われてみればそうよね。周りでここだけまともな家だもの。誰かが住んでても不思議じゃなかったわ」
「こんな物置じゃなくて、ベッドのある客間がありますので、そちらに案内しますね」
アサヒとリアは手早く荷物を片付けてサンピの後についていくことにした。
そこはかつて貴族の邸宅だった場所だったらしい。なかなかの広さがあるが、そのほとんどは崩れていてその面影は失われているが、中心部のいくつかの建物は形を保っていた。
「わたしとコッパちゃんが少しずつ直してるんです」
「コッパちゃん……?」
「あ、こちらのお部屋をお使いください。お連れさんが先に来ていますよ」
サンピが案内したのは階段を上がった奥の部屋だった。
「失礼します。お連れ様をお連れしま――」
ノックをしてドアの取手を掴んで開けようとしたときだった。
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
ばん!
大きな音とともに勢いよく部屋の扉が開いた。そこから現れたのは――
「お、おば、おば、おば……」
青い髪に特徴的なオッドアイ、見上げるほどの長身の旅の剣士。
「エクリプスさん?」「食い逃げ女?」
何やら大変取り乱しているようだったが、それは雪の洞窟でアサヒたちと一緒に数日を過ごし、〈スラーヴァ〉の王宮でアサヒと剣を交えた世界一の剣士になるさだめの女(自称)エクリプスだった。
「わぁ! やっぱりお連れ様だったんですね。この街に来る旅の方ってあまりいないから、そうじゃないかと思ったんです」
サンピは朗らかに言うが、エクリプスはそれどころではない。
「メイドの君! ここはダメだ。危険すぎる! 今すぐ逃げるぞ!」
エクリプスがサンピの腕を掴んで走り出そうとしたとき、アサヒとリアの姿が目に入った。
「そうしたんですか、エクリプスさん?」
「アサヒ君にリア君? どうしてここに? いやそれどころではない。私が仮眠から目覚めたら枕元に――。ええい、いいから君らも来るんだ。早くしないと――」
その時、かちゃという軽い音がしたかと思うと、白い何かがエクリプスの肩に乗った。
「!!!!」
エクリプスが振り返ると、そこにはサンピと同じメイド服を身にまとった白骨が立っていた。白骨はエクリプスの片手に手を当ててカタカタと顎の骨を震わせた。おそらく、笑っているのだろう。
「あっ、紹介しますね。友達のコッパちゃんです」
サンピの声が不自然に低い位置から聞こえてきた。声の方を見ると、そこには首がもげて、床に転がっているサンピの頭が。エクリプスと目があうと、サンピはにっこり微笑んだ。
ぷっつん。
そこでエクリプスの限界を超えた。
「…………………………………………!」
「あ、失神した」
リアの言う通り、エクリプスは可聴域を超える悲鳴を発してそのまま倒れ込んだ。その衝撃でエクリプスがつかんでいたサンピの腕ももげたが、もはやそれに驚く者はこの場にはいなかった。




