その8
結局、鎧の修復が完了するまでには一週間かかった。
その間、アサヒはアカデミーの街並みを見学したり、〈東京〉に戻ったときのために『俺振り』最終回のコンテを切ったりして過ごしていた。
そして旅立ちの朝。
「みなさん、お世話になりました」
中央庁舎の前に来てくれたエムズビルと、何人かの魔術師に頭を下げる。
「お元気で。またいつでも遊びに来てくださいね」
エムズビルがそう言ってくれた。他の魔術師たちもめいめい言葉をかけてくれた。
「で……」
アサヒは中央庁舎の中を覗き込んだ。
「リアはどうしたんでしょう?」
リアは朝早く、鎧の最終調整をするとかでラボの魔術師に連れられて出て行って、それ以来顔を合わせていない。
「もうそろそろ来るはずですが……あ、来たようですよ」
エムズビル老人の向いた先を見てみる。正面玄関ではなく、奥の工房へと続く前庭の横の方の通路だ。
そこに黒い人影が現れた。二人の若い魔術師に付き添われた漆黒の全身鎧。
「おまたせ。もう準備できてるの?」
「うん、大丈夫。リアの方は問題ない?」
「ええ、問題ないわ。見てよこの鎧。リニューアルしてさしずめ、リアバージョン2ってところかしらね」
そう言って全身鎧の胸を張るリアだったが、アサヒには何が変わったのか全くわからない。強いて言えば左肩の部分に見慣れない出っ張りがあるくらいか?
「ふーん。でも、あまり変わらないね」
見た目はあまり変わらないというつもりで言ったのだが、それが間違いだった。
「はぁ? 何言ってんの? よく聞きなさい。今回のリニューアルは不具合を修正しただけじゃないの。この一年分のフィードバックを反映して魔法出力とマナプール容量が一五%増、関節駆動も最適化されてより効率的に動けるようになったの。さらに――」
(しまった!)
リアに火を付けてしまった。うかつな一言に後悔するアサヒだが、後悔先に立たず。リアの早口はさらに続く。
「全身に刻印されている非常用の魔術文字も最適化が行われているし、全体の居住性もアップ。同時に自動機能も拡充されていざというときのためにある程度の自立行動が可能。それからオプションの――」
「リアフォーレル、その辺にしておきなさい。アサヒ殿が困っているでしょう」
神はいた! エムズビルがリアをたしなめると、彼女はまだ喋り足りなさそうな様子ではあったが、ひとまず暴走機関車のようなトークは止めてくれた。
「それでは、あらためて。お世話になりました」
アサヒが改めて頭を下げた。彼の後ろには元の場所に戻るためのトンネルがすでに開かれている。
「ここを第二の故郷だと思って、いつでも帰ってきて下さいね」
アサヒの事情を聞いたエムズビルが温かい言葉をかけてくれた。
「リアフォーレルも。あなたに全てを背負わせている身ではありますが、それでも言わせてください。もう少し肩の力を抜きなさい。たまには……帰ってきなさい」
彼はさらにリアの方を見てそう言った。
「でも、それだとみんなの――先生の魔力が……」
そう言うリアの表情は全身鎧に隠されて見ることができなかったが、どんなだったろうか。
「何を言っているのですか? 私の魔力より鎧のデータです。鎧のデータが取りたいのでこまめに戻りなさい。わかりましたね?」
「まったく、人の心がないんだから」
と言いつつもリアは笑っていた。周囲の魔術師たちも同様だった。
そして、アサヒとリアはトンネルをくぐってもとの廃墟へと帰って行ったのだった。




