その4
「えっと、どこに移動するって言ってたっけ……?」
「だから、宿舎よ」
「うん、それはわかってるんだけどね。客間とかはないの?」
「そんなもの、あるわけないじゃない」
リアに案内されるまま連れられたのは中央庁舎から歩いて十分ほどの距離の街中にあるレンガ造りの建物だった。
このアカデミーの建物はどれも赤レンガ造りの建物で区別がつかなかったが、この建物もご多分に漏れずそのひとつで、横に長い構造が周囲の建物と違う程度しか違いがわからない。
その宿舎の二階のとある部屋に通されたのだが、今目の前に広がっている光景――やたらパステル色が多用されている家具、ところどころに置いてあるぬいぐるみ、奥の方に見え隠れするクローゼットにかけられた女物の服、小さな小物入れ。
どこをどう見ても女の子の部屋である。
「もしかして、ここは――」
「あたしの部屋よ」
やっぱりそうだったかと頭を覆いたくなる。
確かに、これまでも〈ジルシー教会〉をはじめとして寝食をともにした仲である。別々の部屋で寝たのは〈スラーヴァ〉の都での一晩のみで、それ以外はすべて同じ部屋で寝起きを共にしている。
しているのだが――
(これはこれで違うんじゃないの……!?)
アサヒは大変混乱していた。
ここはリアの私室である。そこに入るということはまた別の意味を持つのであって、そこまで踏み込んでいいものなのか。いや、そもそも彼女が連れてきたわけだし、ここで断るのも失礼に当たるというかなんというか……。
「ほら、あたしこの大きさだし鎧もないでしょ? あんたがいないと自分の部屋でもまともに生活できないのよ」
「確かに……」
言われてみればその通りである。
確かリアは一年間旅をしていたと言っていた。久しぶりの里帰りなのに、自分の部屋でくつろげないのは確かに寂しい。
ならば、そのサポートに徹してやるのも旅の相棒としての役割ではないだろうか。
(お世話係だ。お世話係)
アサヒは無理やり自分を納得させることにした。
アサヒの動揺とは裏腹に、リアは弛緩しきっていた。男性を部屋に連れ込んだという意識など全くなかった。
そもそも、ここ数か月の間、常に共にいた仲である。一緒にいるのが当たり前で、今日のキャンプ地はここにするくらいの感覚で自室に案内したに過ぎない。
その緩みっぷりは、脱ぎっぱなしの服をアサヒに片付けさせていたほどである。
そういうわけで今は自分のベッドをアサヒに明け渡し、部屋にあった空き箱を利用した新しいベッドに潜り込んですやすやと夢の世界へと旅立っていった。
「おやすみ」




