その3
「なるほど、事情はわかった。ではすぐに工房の人間を起こしてくるとしよう」
「ありがとう。助かるわ」
老人はアサヒとリアを応接室らしき部屋に通すと、そのまま出て行った。
手持ち無沙汰になったアサヒは奥の給湯室でお茶を淹れることにした。
「先生、って言ってたね」
二人分のお茶を淹れて、ようやく一息つけた。ここのお茶は紅茶のようだが、アサヒが慣れ親しんでいるものよりも少し渋みがあるようだ。リアは砂糖を入れて飲むのだと言っていたので、砂糖をひとさじ入れて飲んでいる。
「ガリーフィヴェルナ・エムズビル・ゼス・マギア・カリミエイニⅠ。あたしの育ての親で魔法の師匠」
「親……育ての親……」
「今じゃ魔道管理局常任委員の第一席次なんて偉そうな肩書きをつけてるけど、ただの魔法オタクよ」
楽しそうにエムズビルのことを話すリア。
当たり前だが、ここにはアサヒの知らないリアがたくさんある。彼女とはまだ出会って数週間しか経っていないということが嫌でも思い知らされた。
〈マギア〉全体でもナンバーツーである彼は、凍結状態の〈マギア〉の管理者でもあるらしく、誰かが〈マギア〉に入り込んだとき最初に凍結状態が解け、確認する役割にあるのだそうだ。
「この鎧も先生が基礎設計をして、もちろんあたしの要望も入ってるんだけど――」
そんな風に楽しそうに話すリアに対し、アサヒはそれほど楽しい気持ちにはなれなかった。
やがて、エムズビルに起こされたのであろう、二人の若者(彼らは普通の大きさだった)が応接室にやって来てリアの鎧を運び出していった。
彼らによると、診断に二日、その状況に応じて修理の期間が決まるのだという。
「それじゃ、いくわよ」
若者たちが鎧を運び出していくとすぐにリアが立ち上がった。
「行くって、どこに?」
「どこって……あんたずっとここにいるつもり? 今さっき説明があったでしょ? 少なくとも三日はここに滞在するんだから、宿舎に移動しないと」
「え、でも……。あの人たちに黙って移動しちゃってもいいの?」
「もう来ないわよ、彼らも先生も」
リアはテーブルの上をとことこと歩いてアサヒの元までやってくるので、アサヒは胸ポケットに彼女を入れた。すっかりここがリアの定位置になってしまっていた。
「来ないって……え?」
「しばらくは鎧にかかりっきりだもの。多分このまま結果が出るまで徹夜ね。あーあ。あたしも参加したかったなぁ」
「あー、そういうこと……」
なんとなく理解してしまった。
アサヒは漫画家である。筆が乗ったときには平気で二日三日は徹夜するし、時には飲まず食わずで作業することもある。
それで倒れたことが一度ならずあるので、最近は定期的に担当の久我山さんやアシスタントの山崎くんが様子を見に来るのであった。
魔法の研究者である彼らもアサヒとある意味同類なのだ。応接室に通されてもお茶のひとつも出ないのも。鎧を回収したらもう戻ってこないというのも、そういうことである。




