その1
目を瞑ってトンネルをくぐる。一瞬だけ気が遠くなるような感触のあと――
アサヒたちは、それまでの荒野の中の廃墟とは全く異なる、文字通りの異世界にいた。
「ここが――」
アサヒたちの足元には敷き詰められた石畳が規則正しく広がっていた。
道幅は狭く、両側には赤れんがの建物が肩を寄せ合うように並び、密集した圧迫感を生み出している。
その合間を縫うように視線を奥へ向ければ、いくつもの細長い鐘楼が空へと突き上がり、さらにその向こうには、ひときわ大きなドーム状の建築物が静かに佇んでいた。
見上げれば、抜けるような青空がどこまでも広がり、赤れんがの街並みとの鮮やかな対比が、どこか異国めいた美しさを際立たせている。
「あたしの故郷〈マギア〉、その中心都市『アカデミー』よ」
大通りとおぼしき道を歩いていく。リアによると、奥に見えるドーム状の建物を持つ大きな建物に向かっているらしい。
「あれがこの街の中心、アカデミー中央庁舎よ」
日は高く、全身鎧をおぶっているのに暑さは感じない冷涼な気候だ。すごしやすいいい場所だとアサヒは思った。
そんな中を歩いていると、アサヒの足音だけが響いていく。
「…………?」
その様子にアサヒは違和感を覚えた。
「あれ……? なんかおかしくない?」
「……? どうしたの? 別におかしくはないでしょ?」
「いや、何か……うーん」
アサヒが思考の海に入っていく。あたりは静かで、それを遮るものはなにも――
「ああっ!」
「えっ、どうしたのよいきなり?」
アサヒは立ち止まってあたりを見た。
やはりそうだ。
こんな日中の、しかも都市の中心部分を歩いているというのに、やけに静かなのだ。
あたりを見渡すと、誰もいない。
これが〈東京〉の中心部ならば平日でも人でごった返しているというのに。
「誰もいないんだよ! こんな大きな街で、道の両側にお店もあるというのに誰もいないんだ」
「あー」
胸ポケットの中でリアがそう漏らした。その言葉には何の感情も載っていないように思えた。
「行きましょ」
しかしリアはアサヒの疑問に答えることはなく、先を促すのみだったので、アサヒは再び中央庁舎に向けて歩き出した。




