表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
W線上のアリア  作者: 雪見桜
トンネルを抜けるとそこは故郷だった
PR
61/65

その7

「こんなこともあろうかと、〈マギア〉に戻れる魔導書はいつも持ち歩いてるのよ」

「えっと……これ?」

 全身鎧が背負ったままになっていた背負子から紅色の魔導書をアサヒが取りだしてリアに見せる。リアは「そう」と頷く。


「それにしても、ギアが完全に動かなくなるのは想定外だったわ。アサヒ(あんた)がいなかったらどうなってたことか」

 そう言いながらリアは小さな手で大きな魔導書のページを一枚一枚めくっていく。

 その魔導書には少なくともアサヒが見る限りにおいては何も書かれていないように思えた。

「何も書いてないわよ。この魔導書はいざというときのためにひとつの術式だけが書かれているの」


 リアの手が止まった。そこには、彼女の言う通り一行だけ文字が刻まれていた。

「魔導書にはその術式の実行に必要な魔力が込められているわけ。当然、その魔力がなくなると魔法は働かない。そして、この魔法の実行には膨大な魔力が必要で、一冊につき一度きりしか使えないわ」

「その魔法ってつまり――」

 リアがアサヒの方を見て頷いた。

「そう。『転移』の魔法」


「こ、これでいい……?」

「うん。そのまま、ゆっくり」

 アサヒがリアのギアの右腕を持って開いた魔導書に近づけていく。その様はまるで二人羽織のようだが、自力で動けないギアを動かすにはこれしかない。

『転移』の魔法を実行させるには魔導書に書かれた術式をギアの指でなぞる必要がある。そのためにアサヒがギアを動かしているのだ。


「これ、大丈夫だよね? 僕だけが転移しちゃうなんてことは……」

 ギアの指が文字に触れるとその部分が緑色に光る。

「大丈夫。〈マギア〉に通じるトンネルができるだけだから」

 緑に光る文字列が赤色に変化していく。十数文字の魔道文字が完全に赤く変わった瞬間、部屋の中は激しい光に包まれた。

「うわっ!」


 光がおさまった後、そこには紫に光る高さ一メートルくらいの渦巻きが屹立していた。部屋の入口につけておいた認識阻害の魔法を付与したカーテンが揺れている。

「これが――」

「〈マギア〉に通じるトンネルよ」


 リアを胸ポケットに収め、全身鎧を背中にかついだ他の荷物は全て部屋の中においてトンネルの前に立つ。

「どうしたの? 早く行きなさいよ」

 リアが急かすが、一度意図せぬまま〈トランカータニア〉に転移してしまった身としてはやはり身構えてしまう。

 だが――

「行きなさいって、言ってるでしょう、が!」

「いてっ!」

 胸ポケットの中で蹴りを入れられれば嫌でも行かざるを得ない。


 目を瞑ってトンネルをくぐる。一瞬だけ気が遠くなるような感触のあと――

 アサヒたちは、それまでの廃墟とは全く異なる、文字通りの異世界にいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ