その4
アサヒの胸ポケットに収まったリアは爆発していた。
(な、何を口走ったの、あたしは……!?)
彼女にとって幸いだったのは、胸ポケットの中にいるおかげで自分でもわかるほど赤くなってしまう顔をアサヒに見られることはないということだった。
「というか、その鎧、リアが中にいなくても自動で歩くんだね」
アサヒが何か話しているみたいだが、ほとんど何を言っているのか理解できない。
今彼女の知覚にあるのは、服越しに伝わるアサヒの体温と彼女の身体全体に響き渡る彼女自身の鼓動だけだった。
そのあとの記憶はほとんどないが、気がついたら日が傾き始めていた。
周囲は相変わらず荒れ地が続いている。時折枯れた木や朽ち果てた動物の骨が見当たるほかは大きな岩がごつごつと散らばっているだけだ。
「そろそろ日も暮れてきたね。風も冷たくなってきたし、キャンプ地を探した方がいいかも」
「そうね。ちょっと探すから、鎧に戻して」
リアがそういうので、アサヒは胸ポケットに入っていたリアの身体を優しくつかんで鎧の面頬近くまで運んでやった。
(きゃー! きゃー! きゃー!)
その時のリアの様子はお察しの通りであるが、幸いにしてアサヒに気づかれることはなかった。
リア全身鎧に戻ると全身鎧は背負った本棚から魔導書を一冊取り出すといつものようにぱらぱらとページをめくってあるページに書かれている文字をなぞった。
「こっちにいい感じの場所があるわ」
暗くなって足元も見えにくくなった頃たどり着いたのは、巨大な廃墟だった。
かつてはこの世界の都だったのかもしれない。だが今では殆どの建物は長い年月の果てに崩れ去り、今ではその面影を僅かに残すのみだった。
二人はその中でも比較的損傷の少ない建物を見つけ出して中に入っていった。
これなら二人雨露をしのぐには十分だ。
「じゃあ、僕は夕食の準備をするよ」
荷物を置いたところでアサヒは調理器具と材料の入った袋を持って外に出た。
「今日の夕食は何かしら?」
リアは部屋の隅に全身鎧を座らせ、面頬から這い出てきた。
アサヒはその様子におかしみを覚えながら、手持ちの食材の残りを考えながらレシピを構築する。
「そうだね……。この世界は〈スラーヴァ〉と違って気温が高いから、足の早い食材はもう使いきってしまおうかと思うんだ。だから肉と野菜の煮込み料理――ポトフとかがいいかな」
「〈ジルシー教会〉で分けてもらった野菜ともいよいよお別れね。名残惜しいわ」
「エクリプスさんにもらった肉もね」
「あの食い逃げ女のことはどうでもいいわ」
「はいはい」と言いながら夕食の準備にかかる。まずはお湯を沸かして――
「リア、火を付けてくれない?」
「わかった」
全身鎧から這い出てきたリアはその小さな身体でてくてくと歩いてきてアサヒの拵えたかまどに火を付ける。この辺りに落ちている枝は乾燥しきっており、火を付けるのに非常に都合がいい。




