その3
「あんたの世界って、どんな感じなのよ。教えなさいよ」
「どんなって言われても……普通だけど」
この〈トランカータニア〉に来る前の〈東京〉の町並みを思い出す。
アサヒは〈東京〉でも端っこの住宅街に住んでいたので、渋谷とか原宿のような目立った特徴はない。
「普通って事はないでしょ。どんな世界にも何らかの特徴はあるはずよ。魔法が使えないとかね」
「確かに魔法は使えないね」
この世界群〈トランカータニア〉には魔法がある。リアの世界のように魔法が当たり前にある世界もあれば、アサヒの世界のように魔法なんておとぎ話だって世界もあるようだ。
「魔法がないと不便じゃない?」
リアはそう言うが、アサヒにはどうもピンとこない。
「うーん、僕の世界では魔法なんてないのが当たり前だったから、不便に感じたことはないなぁ」
「あらそうなの? あたしは夜も暗くて夏が暑い世界は嫌だわぁ」
あー、そうか。リアの中では魔法がないと何もできないという発想なのか。
「いや……魔法はないけど、その代わりに科学と機械で発展してる世界なんだよ」
アサヒは、リアにもわかるように説明してあげた。
「カガク? 聞いたことないわね。どんなことができるの?」
「うーん、僕は専門家じゃないから詳しくはわからないんだけど、スイッチひとつで部屋は明るくなるし、お風呂もボタンひとつでわくよ」
などと、軽い気持ちで話したのだが。
「なにそれ! すごい魔法じゃない! あんた魔法使えないってウソだったんじゃないの?」
ものすごく食いついてきた。
「いや、だから魔法じゃないんだって。科学の力で、機械を使うんだよ」
「魔法と同じ事を科学ってやつでしてるの? すごいじゃない!」
リアの食いつきが半端ない。彼女はさらにまくし立てる。
「ね、ね。あんたの世界では他にどんなことができるの? 空は飛べるの? 呪文で炎は生成できるの? 氷は?」
自動で歩く全身鎧の肩の上で前のめりになるリアは今にも落ちてしまいそうなほどだ。
というか、落ちた。
「きゃあ!」
「うわああっ、危ない!」
全身鎧の肩から転がり落ちるリアをアサヒが慌てて受け止めた。スケール感からしたらビルの四階か五階くらいから落ちたに等しいので危うく大惨事になるところだった。
「あ、ありがと……」
アサヒの手のひらの上で横座りで顔を赤くして胸を押さえている姿はその大きさも相まって本当に人形のようだった。
ん? 顔を赤く?
(う、うわぁぁぁぁぁぁぁ……)
リアはアサヒの手のひらの上で内心悶絶していた。高所から落ちたからではなく――
(びっくりした、びっくりした、びっくりした……! まさか、助けてくれるなんて……。というか、こいつの手、思ったより大きいんですけど……!)
顔のほてりと心臓の高鳴りが抑えきれない。
「だ、大丈夫?」
アサヒは、リアが落ちたことを心配しているようだが、リアの側からしてみれば、それどころではない。アサヒの声がいちいちリアの感情を刺激してくる。
「だ、だだだだ大丈夫よ。あたし、空中浮遊の魔法も使えるんだから、心配しなくてもいいわ」
つい、そんなつっけんどんなことを言ってしまった。
「そ、そうだったんだ」
言ってから、その言い方はなかったんじゃないかと後悔するリア。
「でも、僕の方がびっくりするから、できれば安定したところに居てほしい」
などと言うから、つい調子に乗ってしまった。アサヒの胸元を指さして、
「そ、そこに入れば……いいんじゃない……かな?」




