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W線上のアリア  作者: 雪見桜
トンネルを抜けるとそこは故郷だった
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55/66

その1

 W線とは、複数の世界が集まっている世界群たる〈トランカータニア〉において、隣接する世界と世界の境界線である。すなわち、W線の向こう側は異世界なのだ。

 今アサヒと、彼におぶられているリアは、そのW線の前に立っている。


「今回ほどW線を早く越えたいと思ったことはなかったよ」

 アサヒは肩をすくめぶるりと震えた。吐く息は真っ白だ。

「あたしもそろそろおぶられているのは飽きてきた所よ。身体がなまってしょうがないわ」

 そのソプラノの声はアサヒが背負っている真っ黒な全身鎧から聞こえてきている。


 日本で少女漫画家をしていたアサヒ(二一歳男性)は、ある日突然異世界に転移してしまった。

 そこで出会った全身を漆黒の全身鎧で包み込んだ少女・リアと出会う。

 元の世界に戻るため、この世界群の中心である『世界樹』ユグドラシルまでリアと共に旅することになった。


 その途中に立ち寄った世界〈スラーヴァ〉での戦いにて動けなくなったリアをおぶって〈スラーヴァ〉と隣の世界の境界線・W線までやって来たというのがここまでの話。


「なまってって……リア、ここまでもずっと自分で動いてないじゃない」

「気分の問題よ、気分の。それに一応、このギアもあたしが動かしてるんだもの」

 そういう問題じゃないんだけどなと思ったが、言ってしまうとまたいろいろうるさいので黙っていることにした。この一ヶ月で『沈黙は金なり』という言葉を覚えたアサヒであった。


「それじゃ、越えるよ。いいね?」

 今アサヒの足元にはくっきりと目に見える線が存在していた。黒い線が書かれているのではなく、手前と向こうで明らかに違うのだ。何もかもが。

 手前にはくるぶしまでずっぽりと雪に埋まる雪原。これまで旅してきた雪と氷と宵闇の世界〈スラーヴァ〉だ。

 そして今、目の前にある地面に積雪はない、岩の地肌だ。さらに正面から明るい光が差し込んできている。この先の世界は昼なのだ。


「いいわよ。行きましょう」

 リアがそう答えたのでアサヒはこくりと頷き。一歩を踏み出す。W線を越えるのはこれで二度目だが、世界の境を超えるのはいつも緊張する。


 それまでの雪を踏みしめる感触から一転、安定した大地を踏みしめる感触。

 凍てつく空気ではなく、ほどよく暖かな空気。

 空から降り注ぐ太陽の柔らかな光。


「ここが……新しい世界……」

 辺りを見回してみる。

 青い空には白い雲が浮かび、空高く太陽が昇り、さんさんと輝いている。

 足元は赤っぽい岩石質で歩きやすそうだ。遠方にはゴツゴツとした岩山が見える。

 動植物の姿は見当たらない。荒野という表現がしっくりきそうだ。


 そんな新しい世界に感動していると、背中の全身鎧がぴくりと動いた。

「動けそう?」

 聞くと、背中の全身鎧――リアは何やらもぞもぞ動き出した。

「下ろして」

 そういうのでリアを慎重に下ろしてやった。


 リアは地面を踏みしめるように何度か足踏みをして、その後両手を少し回した後で手のひらをじっくり見た。最後に何歩か歩いた後、

「ええ、大丈夫そう」

「よかった。じゃあ行こうか」

 リアは最初はそろそろと歩いていたが、やがて慣れてきたのか、すぐにスタスタと歩けるようになっていった。


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