その7
「認めよう。アサヒ君、君こそが私の越えるべき壁。生涯ただ一人の配偶者だ!」
嬉々として叫び、刀を振り上げて突撃する。小手先の駆け引きなどせず、正面から全力で自分の技をぶつけたくなった。
「絶剣・日翳斬!」
手に持った刀に全気力を込め、突進力と回転力によって叩きつけるエクリプスの絶技のひとつだ。捻った上半身に隠れた刀に込められたオーラが光り、まるで日食のように見えることからついた名前である。
アサヒが身体を捻ったまま突進してくるエクリプスを見た。大きく身体を捻って繰り出されるその技は尋常の技ではないということはアサヒにもよくわかった。
「うおおおおおおおおおおお!」
エクリプスが青白く光り輝く刃を叩きつけてくる。
しかしアサヒの目はそれをはっきりと捉えていた。
最初に刀を握ったあの洞窟での手合わせ、そして先ほどまでの何合かの斬り合い。
あの時の相手の動きがゆっくりと見える現象、どう動けばいいのかがわかる現象。
それが今は、あの時以上にはっきりと感じられる。
ゆっくりと振り下ろされるエクリプスの刀。
アサヒはあらかじめ決められたとおりの動きをする。あたかも下書きの絵にペンを入れるがごとく。
職人の手で鍛えられた玉鋼で作られた刀と、世界樹によって形作られている木刀が交差する。
結果は一瞬であった。
木と金属がぶつかったとは思えぬほど硬い音がしたかと思うと、次の瞬間、刀は宙を舞い、くるくると回転してそのまま前庭に突き刺さった。
「ふふ。ふふふふふふふ」
エクリプスは世界樹の剣の間合いの中、無手で自分の両手を見つめながら笑っていた。その手は細かく震えている。
「はははははははは! 見事!」
清々しいまでの笑顔だった。
「私の全力の一撃を受け止めるばかりか、まさか跳ね返すとは! 私も戦いの最中に刀を手放してしまうとは、なんとも未熟!」
エクリプスは後方に跳躍すると、地面に刺さった剣を引き抜いた。
「さらに戯れたい所だが、残念ながら先ほどの一撃で気力を使い果たしてしまった。今日の所は引き分けとしよう。さらばだ、また会おう配偶者よ!」
そう言い残して正門から出て行ってしまった。一度、置きっぱなしにしていた刀の鞘を取りに戻っていたところがマヌケでなんともエクリプスらしかった。
「ふ~~~~~~~~~~~~~」
エクリプスの姿が見えなくなったのを充分に確認したら、一気に力が抜けた。腰が抜けたかのようにその場にへたり込む。
「し、死ぬかと思った……」
言葉にしてから改めて恐怖に震えた。
とてつもない集中力(?)によって、何とかエクリプスの攻撃を凌ぎきったが、あれを続けられる自信は全くなかった。
生まれて初めて向けられる本物の殺気に、アサヒは心の底から恐怖を覚えていた。いつ失神してもおかしくはなかった。
それでも立っていられたのはリアに対する責任感もあったが、半ば以上に偶然でしかなかったのだ。あのままエクリプスが引いてくれなかったらどうにもならなかった。
「僕は漫画家なんだよ。まったく……」
文句を言うくらいの余裕が出てきた。よろよろと立ち上がってリアのもとへと向かう。
彼女はそこに横たえたときのままそこにいた。まだ意識を取り戻してはいなかった。
あたりの様子を少しうかがってみたが、追っ手が来る様子はない。とはいえ、一刻も早くここを離れたかった。
アサヒは再びリアをおぶって正門から城を出た。そのまま、振り返ることなく雪の降りしきる中、城下町を後にした。




