その5
(このままじゃ……)
反撃の隙がない。少しずつ追い詰められているのを自覚していた。
このままではアサヒの体力が尽きたときが彼の命の尽きるときだ。
それまでにリアが目を覚まして援護してくれれば……。
「いや……」
希望的観測に縋っている場合ではない。常に最悪の事態を想定して行動しなければ。
この場合の最悪の事態とは、リアが目覚めないことではない。アサヒが敗れることだ。
一方のエクリプスの側にも焦りが生じていた。
正直侮っていた相手だ。一度だけ剣を受けられたことならあるが、あれはまぐれだと思っている。まぐれでないとしても、一度受けられたからなんだというのだ。
しかし今はどうだ。
今彼女は全力でアサヒを攻め立てている。持てる限りの技と技術と詐術を使ってアサヒを戦闘不能に追い込もうとしているが、その全てが空振りに終わっているのだ。
フェイントは読まれ、浅い角度の攻撃は無視され、急所を狙った攻撃はいなされる。
全力で仕留めに行った攻撃が通用しないことに対する精神的な疲労は想像以上である。
エクリプスは今それを毎分何十回という頻度で味わっていた。
認めざるを得ない。これほどまでの相手は彼女の師匠以来だ。もはやなりふり構ってはいられなかった。
「いくぞ、アサヒ君!」
連続の突きからしゃがみ込んで足元を狙う攻撃。しかしそれはキャンセルして殺気だけを上に飛ばす。
相手が自分の気を読んで動いているのであればそれに釣られるはずだが、アサヒは釣られなかった。
やはりこの男に小手先の駆け引きは通用しない。ならば正面から叩きのめすしかない。
そう結論づけたエクリプスは、下半身のばねを使って渾身の斬り上げ。アサヒは身を引いてそれを回避。
それは織り込み済みだった。経験の少ないアサヒは回避にもある程度一定のパターンがあることがわかっている。だからそうなるように誘導したのだ。
振り上げた状態から刀を持ち替えて、そのまま振り下ろす。
「うおおおおおおお!」
それは一見、上段から振り下ろすだけの技に見えた。あの時、洞窟の中でエクリプスがアサヒにみせた最初の技。エクリプスが振り下ろした枝はアサヒの刀によってすぱっと切り落とされてしまった。あの再現だ。
アサヒの刀が動いた。エクリプスが想定したとおり、下からすくい上げるようにエクリプスの刀に合わせる動きだ。その動きをすることはわかっていた。この戦いでも上段からの攻撃に対しては必ずこの対処をしていたからだ。
思わずエクリプスの頬が歪む。
「秘剣・斬烈剣!」
金属どうしがぶつかる激しい音。
エクリプスの上段をアサヒの刀が受け止めた。あの洞窟でも見た、この戦いでも何度かあった構図だ。
だが、今回はそれだけではなかった。
アサヒを襲う音と衝撃は最初の一回だけではなかった。その後二回、音と衝撃がアサヒを襲った。
次の瞬間、アサヒの手がふっと軽くなった。一瞬にしてそこにかかっていた負荷が消滅したのだ。アサヒの刀はその中程から先の刃を失った。
「!!」
エクリプスの刀を一旦受け止めていたことが幸いした。そこからさらに振り下ろされるエクリプスの刀は十分に遅く、アサヒは見て避けることができた。
だがそれまでだ。城の前庭に折れた刃が突き刺さった。




