その4
つばぜり合いは一瞬だった。エクリプスは後方に大きく跳躍した。
「そうか、やはりそうか!」
間合いを取ったエクリプスは目を輝かせて嬉しそうだ。
「ついに本気を出してくれたようだな、アサヒ君。やはり修行などでは本気を出せないということだな」
え、違うんですけどと言おうとしたが、それを言わせぬままエクリプスは続ける。
「ならば、今この場で全力で本気でやり合おう。いざ、死合わん!」
次の瞬間、エクリプスは爆発的な加速力を発揮して間合いを詰めてきた。
「……っ!」
先ほどより明らかに速度が上がっている上段をギリギリのところで回避。
エクリプスは速度が乗ったままの体勢から急制動をかけ、その勢いでアサヒの胴目がけて横薙ぎを放つ。
アサヒはそれを正面から受けることを選択せず、エクリプスの軌道を逸らすように刀を当てて対応。両者の刀の切っ先が地面に触れる。
「はッ……!」
二人の体勢が崩れたが、それで攻撃の手を緩めるエクリプスではない。その体勢を利用してアサヒの脇腹に蹴りを加える。
「ぐはっ……!」
それほど力を入れたわけでもないが、それはエクリプスから見てそうなだけであって、喧嘩慣れしていないアサヒにとっては十分な威力だった。
アサヒはそのまま数メートル、リアが横たわっている場所付近まで吹っ飛んだ。
「いてててて……」
そうは言いつつも、意外と身体にダメージはない。蹴られたことによる精神的な動揺もないようだった。
アサヒは立ち上がるとすぐさま刀を構えた。
「楽しい、楽しいぞアサヒ君! やはり私が見越したとおりの男だ、君は! こんなに楽しい戦いはいつ以来だろうか!」
まるで新しいおもちゃを与えられた子供のように、刀を振り回しながら嬉々としているエクリプス。
「ああっ、こうしているのももどかしい。言葉ではなく、刀と刀で語り合おう!」
再びエクリプスが駆け出した。一直線にアサヒに向かってくる。単調な動きだ。
だが次の瞬間、エクリプスの姿が残像を残して消えた。
「…………!」
アサヒはエクリプスの動きをはっきり捉えていた。その動きに合わせて上を見る。
しかし、そこにも残像しか残っていない。
アサヒが目で追う場所目で追う場所どこも残像しかいない。気づけば周囲をエクリプスの残像が取り囲んでいた。
「秘剣……残像剣!」
周囲の残像たちが一斉にアサヒに襲いかかってきた。六人のエクリプスたちが同時に刀を振るう。
しかし人が六人に分裂するはずもない。少なくとも、エクリプスの残像剣はそうではない。アサヒはそれをはっきりと見極めていた。
アサヒは残像ではない本体――右上から斬りかかるエクリプスをしっかりと見た。
だが、それはアサヒの経験のなさを露呈したともいえる。
アサヒが本体に向けて刀を突き上げた。
しかし、くるとわかっている攻撃を躱すのは簡単だ。
アサヒは本体を正確に見抜いていた。だから本体をまっすぐ見ていた。それは、エクリプスの側からも、アサヒが本体を見破っているということがわかるということだ。
相手が本体を見破っているのであれば、次に相手が行うことを見破るのは容易い。迎撃だ。アサヒの行動はストレートすぎたのだ。
繰り返しになるが、くるとわかっている攻撃を躱すのは容易い。
エクリプスは、アサヒが刀を突き上げるのと同時に今まで本体だったものを残像にし、本体は素早く地面に着地した。
「!!」
当然、それもアサヒは見破っていたが、すでに動いてしまっている身体を引き戻すことは極めて困難だ。
「秘剣・烈空斬!」
しゃがんだ状態のエクリプスは、大きく身体を伸ばすように刀をすくい上げた。その軌道はアサヒの身体の中心をなぞっている。
咄嗟に腕で身体を守るアサヒ。エクリプスの刀はアサヒの腕を切り裂き――
「!!」
硬い音。エクリプスの刀はアサヒの腕を切り裂くことはできず、逆に弾き飛ばされた。
すぐさま地面の上を転がって間合いを取るエクリプス。
「なるほど。その腕、なかなかに厄介なもののようだ」
アサヒの世界樹の腕によって攻撃を阻まれたエクリプスは、その時の衝撃で手がしびれたのか、自分の手を見つめる。だがその表情は先ほど以上に嬉しそうだ。
「だが、このエクリプスは世界一の剣豪になるさだめの女。ここで負けるわけにはいかんのだよ」
エクリプスが一気に間を詰める。そのまま突き。だがそれはフェイク。
アサヒもエクリプスの動きはよく見えている。フェイクには惑わされず、本命のみを体捌きで躱す、あるいは刀で逸らす。
「そらそらそらそら!」
目にも止まらぬ連続攻撃。致命傷こそないが、エクリプスの斬撃は少しずつアサヒを捉え始め、勇者の服を切り裂き、腹部の薄皮を切り裂いていく。




