その3
「ほう……少しは様になってきたのではないか? あれから鍛錬を欠かしてないようだな」
エクリプスの声が聞こえた。
はっきり言って、剣の鍛錬などあれから一度もしていない。本当ならこの剣もどこかに置いていきたいほどだった。重いし。
だが、それを今、敵に言ってやる義理はない。
余裕の表情を取り繕ってにやりと笑う。ハッタリだけなら負けはしない。こちとら、ハッタリだけで何十万といるファンを楽しませている漫画家だ。
「よし」
そういって軽く息を吐いた。それでスイッチが入った気がした。
目の前のエクリプスを見る。刀を強く握りしめる。
いくぞ。
「うああああああああああ!」
刀を大きく頭上に構え、全力で踏み込む。その勢いで刀を振り下ろした。
しかしそんな付け焼き刃の攻撃がエクリプスに命中するはずもない。
エクリプスは苦もなくそれを躱し、返す刀でアサヒに斬りかかる。
「知らぬでもない仲だ。苦しまぬようひと息で――」
しかし、そのエクリプスの攻撃も空を斬った。
「……!!」
驚愕に目を見開くエクリプス。
そうしている間にアサヒの第二撃が襲いかかる。
「速い……!」
軌道が素直なのが助かった。エクリプスはアサヒの軌道を読んでこれを間一髪で回避。だが明らかに先の一撃より余裕がなくなっていた。
「だが……!」
エクリプスは回避からの流れを利用してすくい上げるように反撃。
これも空を斬った。
しかしそれは織り込み済みだった。すくい上げた刀は円を描くような軌道でそのまま振り下ろされる。
(見える……!)
くしくも、あの時と同じだった。洞窟の中でただ立っているだけでいいと言われたあの時。
上段から振り下ろされるのは木の枝ではなく、あの時は自分が持っていた彼女の愛刀。
対峙するのは吹雪の中の洞窟ではなく、鋼鉄と真鍮の城。
仕方なくエクリプスの修行につきあってではなく、リアを連れて脱出するために。
だが、あの時と同じようにエクリプスの動きははっきりと見えたし、どう動くべきかもわかっていた。
あの時と同じようにエクリプスの剣筋にあわせるように刀を振り上げる。
硬い音が鳴った。と同時に両腕にかかる大きな力。
重なり合う二本の刀の向こうにはエクリプスの長身が見下ろしていた。目を大きく見開き、唇の端をつり上げている。




