その1
リアをおぶって玉座の間を出た。
玉座の間に通じる廊下にも、玉座の間に入りきることのできなかった甲冑たちが多数折り重なるように倒れていた。
胴から外れた兜や籠手などの隙間から甲冑の隙間が見えたが、そのいずれにも中身はないがらんどうだった。片付けのされていない物置のように、どの甲冑もぴくりとも動かない。
そんな甲冑をかき分けかき分け、ゆっくりと歩いて行く。
どう行けばいいのかはわかった。何故なら、アサヒが来た道にしか甲冑は倒れていなかったから。
ガス灯に照らされている前庭を経由して正門へ。この頃には廊下に倒れる甲冑もほとんど見かけなくなっていた。門の向こうには今朝ここを通してくれた門番たちもやはり糸の切れた操り人形のように倒れていた。
「待ちたまえ」
今まさに正門を越えて城下町へというところで背後から声がかけられた。緊張が走る。
「悪いが、そこを通すわけにはいかない。一宿一飯の恩義は返さねば――おや?」
アサヒが振り向いた先――前庭を挟んだ城側に立っていたのは、長くて青い髪の着流しを着た長身の女性。右手には鞘に入ったままの反った長剣――刀を持っている。
シチューを食われたというか、肉を分けてもらったというか、雪山の洞窟で出会ったエクリプスである。
「エクリプスさん」
アサヒがその名前を呼ぶと、向こうもこちらに気づいたようだ。
「誰かと思えば、アサヒ君ではないか。まさか城に侵入した賊が君たちだったとはね」
エクリプスは手に持っていた鞘から剣を抜いた。日本刀じみた美しい波紋がガス灯に照らされてきらりと光った。
「ま、待ってください! これには事情があって……」
見知った顔であったことによって少々気が緩んだ。笑顔で誤解だと手を振る。
が――
「言い訳無用。君たちが城に侵入した賊であり、私は雇い主にその排除を命じられていることは確かだ」
エクリプスは刀をくるりと回して両手で構える。
「抜きたまえ。君も彼女を救いたいのだろう?」
エクリプスの目線が少しずれた。アサヒがおぶっている漆黒の全身鎧を見たのだ。
『あんたならできる』
リアの言葉を思い出した。そうだ、リアは僕を信じて全てを任せてくれたんだ。
あれからぴくりとも動かないリアを降ろし、丁寧に地面に横たえる。エクリプスはそんなアサヒを待っていてくれた。
前庭の真ん中まで歩いてくる。エクリプスも同じように歩いてきた。彼女とは三メートルくらいの距離をおいて立ち止まった。
腰に吊ってある鞘から剣を引き抜いた。エクリプスが今目の前で構えているものと同じく、日本刀のような片刃の両手剣。彼女が使っていた予備の刀を、アサヒが練習用にと譲り受けたものだった。
「ほう……少しは様になってきたではないか。あれから鍛錬を欠かしてないようだな」
エクリプスが嬉しそうににやりと笑った。




