その5
多数の金属板がぶつかり合う音が玉座の間に響き渡った。それは耳を覆いたくなるほどの大音量だったが、アサヒには耳を塞ぐ余裕もなかった。
目の前のリアが、崩れるように倒れたからだ。
「リア、しっかり!」
咄嗟の判断で彼女を受け止めたアサヒは、そのあまりの軽さにびっくりした。あらかじめリアが言っていた「思っているよりも重くない」は本当のことだったのだ。
「なら……!」
リアに託された通りにするしかない。
アサヒはリアを担ぎ上げておぶった。そこで初めて周りの様子を確認する余裕が生まれたのだ。
玉座の間にすし詰め状態だった甲冑たちは、ただの一体の例外もなく倒れていて、動く気配もない。リアと同じ状態に陥っているようだった。
見ようによっては死屍累々とも見えなくもない――が、死者は誰もいない。玉座の間で今動けるのは三名。アサヒ、皇帝、そして女魔術師だった。
甲冑をかき分けリアを背負って歩き出すアサヒ、ただ「よく戻った」とだけ言い続ける皇帝。そして動かなくなった甲冑の上に落下した女魔術師は――
「やってくれたわね! 何をしたのか知らないけど、もう動けないとみた。残るはあの役立たずの男だけ。あれならあたしの魔法で……!」
甲冑の間に埋もれていた女魔術師は顔を出すや否や素早く呪文を唱えて甲冑の海を渡るアサヒに向けて手をかざした。
「trovao!」
先ほどはリアにこそ腕の一振りで消されたが、何の力も持たない男一人を蒸発させるには十分すぎるほどの魔力を込めた雷の一撃がアサヒを襲う――
ことはなかった。
「な、え? 何が?」
女魔術師が困惑したような声を出した。再び呪文を唱えて腕を振り下ろすが、やはり何の効果も現れない。
そうしている間にもアサヒは一歩一歩確実に歩を進めて、そのまま玉座の間から出て行った。
「ど、どういうことなの? どうしてあたしの魔法が発動しないの?」
何度呪文を唱えても、何度手を振っても何も起こらないことに女魔術師はすっかり混乱していた。目の前の敵が何の妨害も受けずにその場から立ち去ってしまっていたことに気づきもしなかった。
何分経過しただろうか? 壊れたおもちゃのように手を振る女と、同じ言葉を繰り返し話すだけの壊れた男だけが残る玉座の間に、第三の人物が現れた。
「大きな音がしたから来てみれば……なんとも、まあ……」
アサヒが出て行ったのと同じ入口に立ち、腕を扉にもたれかけさせて呆れたように部屋の中を覗く長身の女がいた。
「あ、あんた……! いたならどうして……」
「助けに来なかったかって? そりゃ、言われなかったからだよ」
「な……!」
「呼ぶまで来るなと言ったのはあんたの方だろう? 私は雇い主の言葉は忠実に守るたちなんでね」
「なら、今すぐあいつを追いかけなさい! そしてその首をあたしの前に晒すのよ!」
「はいはい、わかりましたよ」
そう言って着流しの女――エクリプスは身を翻して出て行った。




