その2
「やっぱり、探していた『あの子』じゃなかったわ。もうここに用はないわね」
「ちょ、ちょっと待ってよリア!」
アサヒがリアを追いかけていく。
完全に無視された形の女魔術師は――
「ば、馬鹿にして……!」
短く呪文を唱えて前方に手をかざし、叫んだ。
「trovao!」
かざした手のひらから紫電が現れ、リアへと殺到する。それは牛をも一撃で殺す一撃だった。
しかし――
「ふんッ!」
リアが振り向きざまに片手を振ると、ただそれだけで女魔術師の渾身の一撃は吹き飛んでしまった。
「どうやら……」
怒り心頭のリアは、再び玉座の方へと歩き出した。
「痛い目を見ないと」
「り、リア……ほどほどにね」
というアサヒの言葉など当然耳に入らないリアは、背負子から一冊の魔導書を取り出し、ページをめくった。
「わからないようね!」
その瞬間、リアの全身から暴風とも思えるほどの魔力のオーラがほとばしった。
「そんなこけおどしを!」
女魔術師が左手をさっと挙げた。が、何も起こらない。
否――
アサヒは自分の周囲が暗くなったのを感じた。上を見ると、先ほどまで謁見の間の隅に飾られていた甲冑がリアに襲いかかるところだった。
「リア、後ろ!」
その声に素早く反応したリアは魔導書に指を這わせた。周囲に出現した火球が甲冑の頭部に命中。甲冑は勢いよく吹き飛んだ。
「うわっ! ……ひいっ!」
爆発の音に驚き、次に甲冑の首がアサヒの目の前に転がっていたことに驚いた。
「よく見なさい。その甲冑に中身はないわよ」
「え? あ、本当だ」
リアの言う通りだった。アサヒの目の前に飛んできた頭部はもちろん、煙を出して転がっている胴体にも中に人はいなかった。女魔術師が魔法で動かしていたのだ。
「こんなザコじゃあたしを倒せないって〈ジルシー教会〉で学習しなかったの? ホント馬鹿ね」
「ぐ……この、小娘が……ん?」
女魔術師は何かに気づいたように眉間に皺を寄せて薄目になり、リアの姿をじっと見つめた。もしかすると近視なのかもしれない。
「あんた、もしかして〈ジルシー教会〉で私の兵隊に酷いことをした『漆黒の魔王』……?」
「だーかーら! あたしは魔王じゃないってば!」
リアは怒り、床をドンと強く踏んだ。
「もしかして、ここまで仕返しに来たの? というか、世界樹の勇者はどうしたっていうのよ! ま、まさか倒した……の?」
「ふふん、楽勝だったわ」
胸を張ってドヤ顔(推定)のリア。実際には倒していないのだが、馬鹿正直に教えてやる義理はない。




