その1
玉座の前を堂々と歩くリアと、その後ろをキョキョロと周囲を見ながらついて行くアサヒに皇帝が口を開いた。それは聞こえるかどうかというほどの小さな声であったが。
「よく戻った、世界樹の勇しゃ――」
「止まれ! 貴様、何者だ!」
皇帝のぼそぼそとした言葉は、大きくてよく通る女の声によって遮られた。
女魔術師の声などまるで聞こえなかったかのようにリアは玉座の間をずんずん進んでいく。その後にアサヒも小走りでついて行く。まるでアニキについて行く下っ端である。
「止まれ! 止まらんと……!」
女魔術師は何事か呟いた後で手を振ると、玉座を包み込むようにドーム状で半透明の壁が現れた。壁の周囲にはスパークが走っており、わかりやすくその危険性を伝えている。
が――リアはそんなものはお構いなしに歩を進める。
「リア……!」
あぶない、とアサヒが言おうとしたが、その言葉はリア自身の行動によってかき消された。リアは歩きながらまるで全身鎧の左腕を横に振ると、これまでの存在感が嘘のようにドームは消え失せ、リアは何事もなかったかのようにそのまま歩を進めていった。まるで、カーテンを開けるかのような気楽さであった。
「見たところ、〈マギア〉の魔術師でもなさそうだけど、あんたこそ何者?」
リアは玉座のある段の手前まで進むと手に腰を当てて傲岸不遜に聞いた。
「門番は何をやっていたのか! こんなどこの馬の骨ともわからん奴らを通すなんて!」
「さあ? あんたの設定がお粗末だったんじゃない? 探査魔法も、あたしが今しがた解除した結界魔法もお粗末だったしね」
「探査魔法! そうよ、探査では確かに世界樹の勇者の反応が――」
「そんなもん、偽装した反応を返したに決まってるじゃん」
「な……!」
美貌の女魔術師の顔が驚愕に固まった。そんなことは予想だにしていなかったといいたげな表情だ。
「そんなことができるわけが……!」
「自分の物差しだけで物事を考えるからその程度なのよ」
肩をすくめ、バカにするかのようにため息をついた。女同士のつばぜり合いを後ろで聞いているアサヒは気が気でない。
「あ、あなた……何者なの……? 誰かに依頼されて来たの? それとも……」
怯えたような口ぶりをしている女魔術師だったが、その目は打開策を探して必死に頭を動かしている者の目だった。
が、圧倒的な強者たるリアにしてみれば、そんなことは悪あがきでしかなかった。くるりと踵を返すと、
「帰るわよ」
そう言って歩き始めた。
「やっぱり、探していた『あの子』じゃなかったわ。もうここに用はないわね」
「ちょ、ちょっと待ってよリア!」
アサヒがリアを追いかけていく。




