その7
「あんたのメシ、うまかったぞ。くれぐれもムチャするな」
翌朝――かどうかはわからないがたっぷりの睡眠をとった後――宿を出るアサヒとリアを老婆は見送ってくれた。
彼らがこれから城に行くということは老婆には伝えていなかったが、あの聡い老人のことだ、薄々気づいているだろう。
相変わらず雪がちらちらと舞い、足元は凍り、あたりは夜の宵闇に包まれていた。通りを歩く者もほとんどいない中を二人で歩いて行く。
「どうするの、リア? 皇帝を倒すの?」
足元の石畳も割れる中、大通りだった道をまっすぐ歩いていく。
「倒さないわよ。倒してどうにかなるものでもないし」
「じゃあどうして……」
城に向かっているの、と聞く前にリアがアサヒの方を見た。
「女魔術師ってのが気になってね」
「そういえばリアも魔術師だったね」
こんな全身を漆黒の鎧で固め、腰には剣を佩いている姿ではあるが、リアはれっきとした魔術師である。本に書かれた文字をなぞると魔法が発動するという、アサヒがイメージしている魔法使いとはちょっと違う感じではあったが。
「〈ジルシー教会〉への攻撃には明らかに魔術師の痕跡があったのよ。術式のレベルとしてはちょっと……というか、かなりお粗末だし、一〇年も前からこの世界にいるっていうけど、念のためにね」
「念のため……?」
アサヒが訊くと、リアは「なんでもないわ」とだけ言ってすたすたと先を行ってしまった。
城は街の荒れ具合と比較して全く別世界のようであった。
鉄骨と鉄板でできた外壁の周囲には真鍮のパイプが敷き詰められており、時折そこから蒸気が噴き出している。
そんな王城の正門も巨大だった。正面に立って首が痛くなるほど見上げてもその上部が見えないほど高い。
その門前に立つ全身を甲冑に身を包んだ騎士が二名。同じ全身鎧と言ってもリアのものとは異なり、鈍色の、どことなくずんぐりむっくりしたデザインである。
二人が入ろうとすると、当然のように持っていたハルバードを掲げて通せんぼをする。
「どきなさい。あたし達はここの皇帝に用があるのよ」
リアが甲冑を睨みつける。
とはいえ、そんな一言で門番がどくはずもない。
リアはアサヒの方へと振り返った。
「アサヒ、あんたちょっと脱ぎなさい」
「はぁ!?」




