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W線上のアリア  作者: 雪見桜
終わりゆく都
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36/66

その4

 コンコン。ノックをして一言。

「リア、ちょっとお願いが」

 すると扉の向こうから声がした。

「なぁに?」

「入ってもいいかな?」

 そのまま返事がなかったのでしばらく待つことにした。しかし廊下は部屋よりもずっと寒い。狭い廊下は風の通り道になっていて常に突き刺すように冷たい風がアサヒの身体を打つのであった。


 震えながら廊下の壁にもたれて待つ。レンガ製の壁だったが、力を込めすぎると崩れそうだった。

 そのままどれくらい経ったろう? 何分か経った頃、おもむろに目の前の扉が開いた。そこから顔を出す漆黒の鉄仮面。

「何してるの? 入らないの?」

「え?」


 リアの部屋はアサヒの部屋の隣だ。間取り――といっても粗末な板張りのベッドが置いてあるだけだが――も変わらず。すきま風がひどいのも変わらない。自分の部屋にリアが来ていると言われても納得できそうなほどだ。


「いや、入っていいって言われてないから」

「え? 別にいいわよ、勝手に入ればいいじゃない。知らない仲じゃないんだから」

「でも、着替え中だったらさすがにマズいし……」


 アサヒは少女漫画家だ。それはつまり、現代日本のサブカル文化にどっぷりと浸かっているということでもある。そしてそれには、女の子の部屋に許可なしで入ると着替えに遭遇からの暴力沙汰までのお約束が含まれているわけで――

 しかしその発想は異世界出身であるリアには全く通用しない理屈だった。

 彼女はあろうことか、アサヒの配慮に対して大爆笑で応えた。


「あはははははは――ひー、苦しい……」

 リアは腹を抱えてひとしきり笑った後、深呼吸してから「ごめんごめん」と謝り、ベッドに腰掛けた。

「前も言ったと思うけど、あたしは事情があってこのギアを脱ぐわけにはいかないのよね。だから余計な心配は無用よ」

 真っ黒な全身鎧姿にもかかわらず、「でも気遣ってくれてありがと」と上目遣いでそんな風に言われたものだから、アサヒは一瞬どきりとした。


「それで、何か用?」

「あ、そうだった」

 一連の騒ぎですっかり忘れていたが、カイロを作るために焼け石を起動させてほしい旨をリアに伝えた。

「それなら食事にしない? その方が暖まるわよ」


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