その3
「なんだか寒々しい所だね」
辺りをぐるりと見回してから、アサヒは感想を漏らした。そう思えるのは街全体に降り積もった雪のせいだけではない。
かなり大きな街だ。にもかかわらずこの街には活気というものが一切感じられない。
こうして立っているだけで身体の芯からぶるりと震えてくるほどの寒さであるにもかかわらず、周囲の建物からは煙は全く出ておらず、人々が暖を取っている様子は見られない。
寒々しいのは街並みだけではない。街の規模に比して極端に通行人たちが少ないのだ。たまに見かけたとしても、その身にまとったほとんどぼろとも思えるような外套をきつく羽織って足早に通り過ぎていくのだった。
「〈ジルシー教会〉に何度も軍隊を送ってきた〈スラーヴァ〉の都とは思えないほどの寂れっぷりね」
リアもアサヒと同じような感想を得たようだ。
「えっ、ここが〈スラーヴァ〉の都なの?」
アサヒがそう思うのも無理はない。
れんが造りの四階建ての集合住宅が立ち並び、かつては荘厳な雰囲気を醸し出していたであろうその通りは、しかし今はその面影もなかった。
れんがはひび割れ、割れた窓は板で打ちつけられ長い間放置されている様子だった。
一言で言うなら限りなく廃墟、という感じなのだ。
「間違いないわ。ビーコンを打ったときにここから『コア』の反応があったから」
「『コア』?」
アサヒの疑問に、リアはある一点を見つめた。
この街の中心にある巨大な鋼鉄の建物、王城である。
「世界の中心となるもの、とでもいったところかしらね。強力な魔法道具であったり、人々の信仰を惹きつける神物であったりとか、そういうものが『コア』になることが多いわ」
「それが、ここ――というか、あのお城?」
「あの城というよりは、あの中にある何か、かしらね。取り敢えず今日の所は宿を探して明日、行ってみるわよ」
「ええっ!? あそこに行くの?」
〈スラーヴァ〉は〈ジルシー教会〉に何度も軍隊を送り込んだ世界だ。それらはリアの手によって撃退された。今〈ジルシー教会〉はリアの認識阻害の魔法によって守られており、一〇〇年は安全のはずだ。
「行くわよ。災いは根元から断たないとね。あとは――」
「あとは?」
「あたしに喧嘩を売った報いを受けさせてやるんだから」
鉄仮面越しのその表情はわからなかったが、「ふふふ」とリアの笑う声を聞いて、アサヒはこの寒空の中、背中に汗が流れる感触を確かに覚えたのだ。
この街での宿探しは難航した。
というのも、この街で宿の看板を出している場所は多かったのだが、そこの門を叩いても誰もいなかったり、酷いときにはすでに廃墟になっていたりと営業していない宿が多かったのだ。
そして何件めかの宿でようやく今夜――繰り返しになるがこの世界に来てからずっと夜だ――のベッドを確保することができた。
だが――
「ううううっ、寒い!」
通された部屋の中でアサヒはぶるぶるっと大きく震えた。
ここのところずっと洞窟か雪に穴を空けた簡易テントで野宿だったから、雨風を防げてベッドがあればそれ以上は何も望まないと思っていたが、全くそんなことはなかった。
街の中をびゅうびゅうと風が吹くとそれにあわせて宿の窓がガタガタ震える。窓の立て付けが悪く、窓と壁の間からすきま風が入り込んでそれが寒いこと寒いこと!
アサヒはたまらず袋に手を突っ込んで中から『焼け石』と適当なタオルを取りだした。焼け石をタオルにくるんでカイロがわりにしようという目論みだ。
だがアサヒには焼け石を動作させることができないので、隣の部屋にいるリアのもとへと向かっていった。




