その5
「なんなのよ、あいつ!」
洞窟の入口まで追いかけたが猛吹雪に阻まれ、たき火の所まで戻ってきたリア。その口ぶりからもかなりご立腹のようだった。食べ物の恨みは恐ろしい。
「変な人だったね」
改めて火にかけられている鍋を見た。先ほどまでシチューが入っていた鍋だ。今は空になっている。
そしてもうひとつの鍋。これは先ほど蒸らすために火から下ろしておいたご飯を炊いていた鍋だ。火から下ろしていたために被害から逃れることができたというのは皮肉な話だ。
このご飯、アサヒが食べたかったのもあるが、シチューをかければリアもおいしく食べられるのではないかと思って炊いたものだった(ご飯にシチューをかけるかどうかはこの際議論しないこととする)。
しかし肝心のシチューはもう、ない。
「はぁ……」
鍋の蓋を開いたアサヒがため息をついた。
ご飯の炊き上がりに不満があるわけではない。むしろ逆だ。つややかに並んだご飯からは今も白い湯気が立ちこめていて、炊きたてご飯ならではのいい匂いが洞窟に立ちこめている。
だからこそ悔しい。このご飯をシチューと一緒にリアに食べてもらいたかったのに。
と思っていた所に横からぬっと手が差し出された。
「食べるんでしょ? あたしにもちょうだい」
「え? でも」
最初に食べさせたときにおいしくないと言っていたので、それ以降リアにはご飯はそのままではなく、チャーハンとか混ぜご飯とかカレーとか、味を付けて食べさせていたのだ。
しかし今ここにあるのは白いご飯のみ。かけようと思っていたシチューはすでにない。
「いいからちょうだいよ。あんたがあんなにおいしそうに食べてるんだもん、あたしだって食べたいわよ」
そこまで言うならばと、一人分をよそって渡してあげた。スプーンでご飯を真っ黒な鎧の中に入れていく姿は端から見てかなりシュールだ。
「今日はもう疲れたからこれ食べたら寝るわ。この吹雪、当分おさまらないかもしれないから、明日にでも狩りに行ってくるわよ」
「えー。食べてすぐ寝ると牛になるよ」
「何それ? 人間が牛になるって、どんな魔法よ」
そんな話をしながら切った野菜を炒めているときだった。
「いや魔法じゃなくて慣用句……? うわわっ!!」
「まったく、今日はよく叫ぶ日ねぇ……えええっ!?」
二人が見ている先――洞窟の入口にはまるで雪だるまに手足を付けたような人物が仁王立ちしていた。
雪まみれの人物はシャワー後の犬がそうするみたいに身体をぶるぶると雪が飛び散らせた。すると、中の人物が現れた。
「うわっ……! つめたい! って、あんた、食い逃げ女!」
「エクリプスさん!」
そこには先ほど颯爽と出て行ったはずの着流しの女性――エクリプスがいた。




