その3
「…………」
洞窟の入口から十数メートルも入ると吹雪の音よりもたき火のぱちぱちという音の方が支配的になってくる。
しかし逆にその音だけを聞いていると今この洞窟には自分一人しかいないという心細さが心の中に広がっていく。
となると途端によくない想像が頭をもたげてくるのは漫画家という職業の悲しい性か、それともネガティブな自分の心の弱さゆえか。
洞窟の奥の暗がりで何かが動いたような気がした。
「い、いやいや……。洞窟の中には何もいないってリアも言ってたし」
頭をぶるぶると振る。
かと思うと、今度は雪崩が起こって洞窟の入口が塞がれないか心配になってきた。
「大丈夫だって。その時はリアがきっと助けてくれる」
でも、そのリアがまかり間違って遭難でもしてしまったら。
「あーもう! 考えても仕方のないことは考えない!」
そう言って自分の気持ちを誤魔化すようにたき火の根元を棒でかき回せて火の具合を調整する。燃料にと入れておいた枝がパチンと弾ける音が妙に大きく感じられた。
暇ですることがないから余計なことを考えるんだ。そう思ったので、アサヒはリアが帰ってきたときのために、シチューでも準備することにした。ついでにここ数日食べられなかったご飯も炊く。
先のコーヒーと同様、鍋に雪を入れて溶かす。その間に手持ちの野菜を一口サイズに切り、別の鍋で軽く炒める。同時に水に浸した米を入れた鍋も火にかける。
「本当は干し肉を入れたいところだけど……」
リアが獲物を獲ってくるのを期待して干し肉は使わずに野菜だけでシチューを作ることにした。ミルクとバター、小麦粉、そして溶かした雪で具材をゆっくり煮る。途中塩コショウで味を調えながらかき混ぜていく。ここまで来るといい匂いがしてきた。
ちょっと味見をしてみたい気分になってきたが、もう少し野菜が柔らかくなるまで待とう。ご飯はそろそろ火から下ろして蒸らしてもいい頃合いだ。
「いや、やっぱり味見はちゃんとしないとね」
食欲にはあらがえず、木のスプーンに一口分だけ取り分けてふーふー息を吹きかけて冷ましてから口に入れる。
「んん! 思ったよりもおいしい」
ミルクと小麦粉のとろみは言うに及ばず、バターのコクと具材である野菜の甘みがちょうどよいハーモニーを奏でていて、その温かみとあわせて口の中に幸せが広がっていく。
現金なもので、一口シチューを口にしたことで今まであまり仕事をしていなかった空腹中枢が仕事をし始めた。
くぅ、と腹が鳴る。この誘惑にはあらがえない。
「もう一口……」
「あら、おいしそうじゃない」
「ぎゃああああああああああああ!」
「きゃああああああああああああ!」
「び、びっくりした。なんだリアか」
「それはこっちの台詞よ。突然大声出したりして、驚かせないよね。ていうか、『なんだ』は何よ。『なんだ』は」
「ご、ごめん……」
そこには見慣れた漆黒鎧が立っていた。それまで猛吹雪の中を歩いていたので、頭にも肩にも雪が積もっており、ぱたぱたとそれを落としている。




