その2
吹雪の中、それまでよりもゆっくり歩いて十数分経っただろうか。二人は岩場にある洞窟までたどり着いた。
「ふう。酷い目に遭った」
荷物を置いて、毛皮にこびりついた雪を落とす。
「吹雪がおさまるまでここに足止めかしらね」
リアは洞窟の中で石を組んで〈ジルシー教会〉から持ってきた炭を置いて魔法で火を付けた。
「ありがとう。とりあえずコーヒーでも煎れるよ。身体を温めないとね」
鍋に雪を放り込んで火にかけ、お湯が沸くまで待つ。コーヒーミルなんて高級なものはないので、代わりの手段を執る。
〈ジルシー教会〉から持ち込んだコーヒー豆を麻袋に入れて、洞窟内の平らな岩の上に置く。普通ならすりこぎとか麺棒でやるのが筋なのだが、何せ今のアサヒの腕は木製だ。そのままで十分な固さを持っているだけでなく、痛みも感じない。
「便利ね、それ」
無心に豆を叩いているアサヒを見ていたリアがぼそりと言った。
「こういう所で役に立たないと見捨てられちゃうからね」
アサヒの軽口に、リアはクスリと笑った。
「なにそれ。見捨てたりなんかしないわよ。でも、魔法くらいは使えるようになってもらわないとね」
「……がんばります」
そうしている間に豆はほどよく砕けた。ちょうどいいタイミングで沸いたお湯で蒸らしてコーヒーが完成した。
すでにお気づきのことかもしれないが、この〈トランカータニア〉には『魔法』というものが存在する。
複数の世界が集まって構成されている『世界群』たる〈トランカータニア〉。気候や〈ジルシー教会〉の『祝福』属性など、その世界特有の違いはあるが、それ以外の基本ルールは統一されている。魔法の存在もそのひとつだ。
とはいえ、元々魔法のある世界出身の人はそれほど苦労せずに適応できるようだ。リアもその一人で、元の世界〈マギア〉にいたときと変わらず魔法を行使できているという。
逆に、魔法などおとぎ話でしかない現代日本で育ったアサヒは今のところ魔法を使える気配はない。リアによると、魔法がない世界の出身でも練習次第では使えるようになるはずとのことだが。
「さて、と。おいしかったわ」
コーヒーを飲み終えたカップをアサヒに渡してリアは立ち上がった。
「どこに行くの?」
アサヒが食器を片付けながら訊いた。
「何か獲物を探してくるわ。この吹雪だといつまでここに足止めされるかわからないし、食料は多い方がいいでしょ」
「えっ!? 危ないよ。吹雪がおさまってからでもいいんじゃない?」
すると、リアはくるりとアサヒの方を向いて腰に手を当てた。表情はわからないが、少々ご立腹のようだ。
「だーかーらー。吹雪がおさまったら出発するって言ってるでしょ? それまでの間に体力を蓄えておくために今食糧を確保するんじゃない。わかった?」
「…………わかりました」
リアは「よろしい」と言い残して洞窟を出て行った。先ほど使用してアサヒが不発だと勘違いした探査の魔法を使えばこの洞窟の位置も隠れている獲物の場所もすぐにわかるという。




